どうも皆さん、kmです。今回は腸管出血性大腸菌の
食中毒を引き起こす原因となるベロ毒素についての解説です。
動画版はこちら!↓
ベロ毒素(VT)とは
腸管出血性大腸菌が産生する毒素をベロ毒素と言います。
ベロ毒素は「ベロ細胞」と呼ばれる細胞に
非常に強い毒性を示すことからその名前が付きました。
ベロ細胞はアフリカミドリザルの
腎臓由来の細胞から樹立された細胞株のことです。
VTには二種類存在しており、大きくVT-1とVT-2に分けることが出来ます。
VT-1は志賀毒素と同じ構造を持った物質で、
VT-2は一部アミノ酸が異なります。
毒性はVT-2の方が強力のようですが、
両方とも作用機序的には同じなので、今回は両方一緒に解説します。
また、VTでは少々なじみにくいかと思いますのでベロ毒素と呼称します。
ベロ毒素の構造
ベロ毒素はAサブユニットと
5量体のBサブユニットが非共有結合で結合しています。
これらのサブユニットが協調的に作用することで毒性を発揮しています。
ベロ毒素のLD50
LD50については別に記事を用意しているのでそちらを参照してください。
↓LD50とは?
ベロ毒素のLD50は、
VT-1は30ng/kg(マウス腹腔内投与)
VT-2は1ng/kg(マウス腹腔内投与)
LD50の値から相当に強力な急性毒性を持つ毒
ということがわかるかと思います。
しかし、これは全ての生物に対して同様の結果を示しているわけではなく、
ウサギでは逆の結果が得られています。
ヒトではVT-2の発現が高い方が重症化率が高いということが
疫学的に示されているようなので、
おそらくVT-2の方がLD50が小さいのではないかと思われます。
ベロ毒素の作用機序
ベロ毒素の作用機序は、
「Aサブユニットが細胞内に侵入し、
28SリボソームRNAのアデニンを不可逆的に修飾し、
28Sリボソームの活性を阻害する」
となります。
タンパク質合成の流れ
上の図はセントラルドグマの流れを示したものです。
タンパク質は遺伝子であるDNAから転写という工程を経てRNAが合成され、
それが様々な加工を受けたのちにmRNAとなり、
それが翻訳されることで生み出されています。
この翻訳の際に活躍するのがリボソームです。
リボソームの構造を示したのがこの図です。
リボソームは様々なタンパク質とRNAからなる複合体で、
作用機序で出てきた28SリボソームRNAはこの複合体を構成する一つです。
実はリボソームとしての働きはRNAが担当しており、
タンパクはその補佐的な作用をしているということが知られています。
そのため、リボソームに含まれるRNAの構造は非常に重要となります。
ベロ毒素はどのように作用する?
ベロ毒素は腸管内に存在するO-157が増殖するときに産生される毒素です。
腸管内で産生された毒素は、腸管上皮細胞の細胞膜に存在する
「Gb3」と呼ばれる糖タンパクにBサブユニットが結合し、
細胞内にエンドサイトーシスの要領で侵入します。
その後、Aサブユニットはゴルジ体を経由し細胞質に存在する
60Sリボソームの構成因子である28SリボソームRNAに到達します。
そして、その5’末端から4324番目のアデニンの
N-グリコシド結合を加水分解してアデニン1分子を遊離させてしまいます。
これによって28Sリボソームは
アミノアシル-tRNA(タンパク質の材料の運び屋)が結合できない状態、
すなわち、ベロ毒素が作用したリボソームは
もうタンパク質を合成することが出来なくなってしまったのです。
このため、ベロ毒素の作用した細胞ではタンパク質合成が
不可逆的に阻害されることになります。
細胞の生命活動に必要なタンパク質の合成も阻害されるため
細胞が生存することが出来ません。
よって、ベロ毒素は毒として機能するのです。
今回はここまでです。ここまでお読みいただきありがとうございました。
コメント