どうも、kmです。今回は久しぶりに毒物解説をやっていきたいと思います。
今回取り上げる物質は「砂糖」です。
動画版はこちら↓
砂糖とは?
砂糖の主成分は「スクロース」と呼ばれる2糖類です。以下構造です。
単糖である「グルコース」と「フルクトース」が結合したものということが分かります。
ちなみに加熱すると分解され、およそ186℃でカラメルと呼ばれる褐色の物質に変化します。
この生成過程は今のところ解明されておらず、物質の構造も確定していないようです。
本記事ではなじみやすいように「砂糖」としてお話ししていきます。
砂糖の歴史
砂糖の歴史は紀元前2000~8000年にさかのぼります。
この頃、ニューギニア周辺の島々でサトウキビが栽培されていたということが始まりのようです。
その後紀元前327年にインドに遠征を行ったアレクサンダー大王がガンジス川流域でサトウキビを発見したという記録があり、それからしばらく後の紀元後350年辺りに砂糖を結晶化させる方法が発見されます。
このようにして発見された砂糖は、交易や交流により世界中に広まっていきました。
砂糖の目標摂取量
WHOのガイドラインでは、「肥満・虫歯の予防目的で加工食品や清涼飲料水などに加えられる単糖や砂糖(フリーシュガー)の摂取量を総摂取カロリーの10%未満に抑えるべきである」という指針を発表しています。また、5%未満に抑えることで健康増進効果はより高くなるとのことです。
この量はかなり厳しい基準で、基準通りであればおよそ25g程度です。
コカ・コーラでいうと、食物繊維含めて100mL当たり11.3gの糖類が含まれているようなので、
350mL缶1本だけで超えると考えられます。
もちろんフリーシュガーは様々な加工品に含まれていますから、
現代の加工品中心の生活では順守するのはかなり難しそうです…。
砂糖と血糖値
血糖値については厚生労働省の解説があったので、そちらを引用します。
血糖値は、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度のことです。食事中の炭水化物などが消化吸収されブドウ糖となり血液に入ります。このため血糖値は健康な人でも食前と食後で変化します。通常であれば食前の値は約70~100mg/dlの範囲です。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-085.htmlより引用
血糖値は体内で厳重に管理されています、しかし、
血糖値を管理する機構が破綻すると「糖尿病」などの病気を発症してしまいます。
グルコースは生命活動のエネルギー源として重要なものですが、
高濃度のグルコースは血管にダメージを与えるなど問題も発生するため、
適切な濃度にコントロールすることが重要です。
砂糖の急性毒性
まずはLD50からお話ししていきます。
LD50については過去記事で解説していますので、そちらを参照してください。
それでは砂糖(グルコース)のLD50ですが、
ラット(経口)LD50= 29.7 g / kg体重
LD50としては相当大きいので、
通常のヒトではよっぽどのことがない限り砂糖の大量摂取で死ぬことはないでしょう。
ヒトのLD50はやはり見つけられませんでしたが、
ラットの数値と同じと仮定して計算してみると、
体重60kgのヒトでは、1782g摂取するとようやくLD50になるようです。
黄金糖は一粒4.7gなので、約380粒でLD50です。さすがに口に入らないです。
砂糖がどのようにして毒になるのか?
大量摂取すればどんなものでも毒になります、そのため当然砂糖も毒になり得ます。
それでは砂糖がどのようにして毒として作用するのかですが、その機序は、
「高血糖状態により血漿浸透圧が上昇する」
という感じになると思います。
浸透圧とは?
最初に、濃度の異なる液体が半透膜で仕切られているとします。
この時半透膜は溶けている物質を通さず、水は通すという性質を持つものとします。
この状態で発生する現象として「浸透」があります。
「浸透」とは、濃度の異なる液体が半透膜で仕切られている場合、
半透膜を介して両方の液体の濃度が同じになるまで液体が移動するという現象を指します。
この「浸透」によって、異なる濃度の液体を半透膜を挟んで隣り合わせると、浸透によって濃度が均一になろうとします。しかし、ここで移動する際に働く力と同じだけの力を移動先にかけると、移動が見かけ上起こらなくなり、濃度に変化が起こらなくなります。
この時にかけた力のことを「浸透圧」と呼びます。
浸透圧が今回の内容の何に関係するのか?ですが、
我々の体は細胞で構成されているため、この構図をそのまま適応することが出来ます。
具体的には、細胞の中と外(2種類の液体)、それを仕切る細胞膜(半透膜)という構図で適応することが出来るのです。(下図参照)
出来るだけ正確にお伝えすると上のようになりますが、
今回の解説では「浸透圧は濃度に比例して上がる」と考えていただいても差し支えはありません。
それでは、砂糖の大量摂取によって何が起こるのかですが、当然ながら急激に血糖値が上昇します。
血糖値の急上昇に伴って何が起こるのか?
100mg/dL増加するごとに5.6mOsm/L(浸透圧の単位)上昇することになります。
通常の血漿浸透圧は280~290mOsm/Lなので、多少の血糖値の変動ではあまり大きな影響はないように見えますが、毒性が発揮される濃度はおよそ1000~1500mg/dL程度と言われています。
このくらいの濃度になると、砂糖によって血漿浸透圧は50mOsm/L以上上昇することになります。
割合では2割以上上昇することになります。
文字だけだと少々理解しにくいかと思いましたので、今回は図を作成してみました。
この図は左側が細胞内、右側が細胞外、そしてそれを仕切る細胞膜を示しています。
赤い丸は浸透圧を生み出す物質です。簡略化のため「物質」と表記しています。
また、「濃度」は溶けているものの濃度を示しています。
通常、細胞内液と細胞外液の浸透圧は同じになっています。
実際には電解質組成は異なりますが、ここでは無視します。
ここで、砂糖を大量摂取したとします。
この時、消化管で吸収した砂糖が大量に細胞外液に流入してきます。
これによって細胞外液の濃度が急上昇し、細胞内液と外液の浸透圧差が発生します。
発生した浸透圧差は半透膜を介して水の移動を引き起こします。
これによって細胞内液は減少し、細胞外液が増加することになります。
つまり、細胞内の水が減少することになります。
そして、この急激な変化が非常にまずいのです。
生命活動の維持には「恒常性の維持」が欠かせません。
そして、恒常性の維持には細胞内のイオン濃度が正常値に保たれる必要があります。
しかし、細胞内脱水によって電解質濃度が大きく変動すると細胞内の電解質濃度は正常の範囲を超えて上昇してしまいます。これによって細胞の活動・生命維持に必要な反応が阻害されてしまいます。
当然私たちの体は細胞で構成されているのでそれの正常な活動を妨げるものは私たちの正常な活動に影響します。よって、砂糖の大量摂取は毒として作用します。
今回はここまでです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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