コカインのもたらした光

解説

どうも、kmです。今回は普段の毒物解説とは違い、
コカインの解説をしようと思います。
あまりにも分量が多くなったため、光と闇と分けて解説することにします。
今回は光の側面です。

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コカインとは

https://www.pharm.or.jp/herb/lfx-index-YM-200702.htm

コカインはコカの葉から得られる天然のアルカロイドです。
コカはアンデス山脈のユンガス地方を原産とする植物です。
ドイツの有機化学者であるニーマンが1860年にコカインと命名したこの物質は、
その当時モルヒネ中毒の治療薬として使用されました。
しかし、コカインの性質が十分に把握されていなかったため、
モルヒネ中毒を治療するつもりがコカイン中毒患者としてしまったと言われています。

コカインの歴史
コカインの歴史は、アンデスの大衆薬として始まります。
インカ帝国は標高3000メートル以上の高地に高度な文明を築いた帝国です。
高地での活動は酸素濃度が低いなどの理由から非常に過酷な環境であり、
その過酷さを克服するために民衆はコカの葉を噛むという対策を講じていたようです。
文献にあるもっとも古いコカの葉の用途は、
ナスカ時代(紀元前後から800年頃)の
ミイラに供物としてささげられたものであったため、
当時は神聖なものと考えられていたのかもしれません。
さらに、16世紀前後に南アメリカ大陸を征服したスペイン人は、
現地人がコカの葉を噛みながら非常に厳しい労働を
こなしていることを不思議に思い、興味を持ちました。

そのように発見されたコカですが、
1590年にイエズス会のアコスタ神父の「インディオの自然」で
コカの効果が発表された後300年程度は
特に触れられることはありませんでした。
そんなコカでしたが、とある出来事がきっかけで
ヨーロッパ中に広まることになります。
アンジェロ・マリアーニが製造した
マリアーニのコカワイン」のコカワインの流行です。
コカインの作用による高揚、疲労回復などの作用を持つコカワインは
ヨーロッパ中で大流行し、広く知られるようになりました。

コカ・コーラの話
コカ・コーラを開発したのはジョン・スティス・ペンバートン
というアメリカの薬剤師です。
コカ・コーラは開発された時点ではコカの葉とコカの実を使用していたため、
コカインを含有する飲料でした。
当時はコカインにまだ麻薬という認識はなく、
頭痛の治療薬や強壮剤として考えられていたようです。
その後、コカインが使用されていくうちにその危険性があらわになり、
現在はカフェインのみに変えられています。

局所麻酔薬作用の発見
先ほど紹介したコカインの歴史ですが、
歴史上、ほとんどの場合コカインは麻薬として使用されてきました。
局所麻酔としての使用はオーストリアの医師であるカール・コラーが
コカイン溶液を舌に垂らした際に感覚が消失することに気づき、
1884年の眼科学会にてコカインを麻酔として使用して
無痛の手術を行ったという報告を行いました。
これによって局所麻酔としてコカインが有用であると示されました。

コカインの作用機序
ここまでコカインは局所麻酔作用があるという話をしてきたわけですが、
コカインの作用は皆さん知っての通り依存性のある薬物としての作用もあります。
今回は光としての側面にスポットを当てた解説をするので局所麻酔としての作用についてみていきます。
そのため、コカインの作用機序は
「末梢神経の電位依存性Naチャネルを
遮断することで、神経伝達を阻害する」

となります。

局所麻酔としてのコカイン
伝達の仕組み

https://www.kango-roo.com/learning/2078/

上の図は活動電位の発生と時間経過を示したものです。
①はまだ信号が到達していない状態です。
この時、細胞内は-に、細胞外は+の電位を保っています。

②細胞に刺激が加わると、イオンの移動が発生し細胞内外の電位差が逆転します。
これによって細胞内のイオンの移動が起こった周辺が+、
細胞外が-の電位になります。

③細胞内の一部が+となった際に、
その付近にある電位依存性Naチャネルが開口します。
その結果、細胞内外のNaの濃度差によって細胞内にNa+が流入し、
Naチャネル周辺が+になります。

④細胞に電位差が発生しているため、+から-へ電流が流れます。
それによって付近のNaチャネルが開口し、
③と同様にNaチャネル周辺の電位が+になります。
また、ある一定の電位まで上昇すると自然とNaチャネルは閉じます。

⑤Naチャネルが閉口した後、電位依存性K+チャネルが開口し、
細胞内に多く存在するKはそこから細胞外に流出します。
その結果、細胞内の電位は元に戻ります。
⑤の状態では電位は戻っていますが、
細胞内のイオン濃度が静止状態と異なるので、
別の仕組みによってこれが元に戻されます。

コカインはどのようにして働いている?
コカインは電位依存性Naチャネルを阻害するわけですから、
この神経伝達を阻害するわけです。

それでは電位依存性Naチャネルを阻害すると神経伝達が阻害されるわけですが、
局所麻酔をしても必ずしも体が動かせないというわけではありません。
コカインによる局所麻酔も同様で、適切な量であれば痛覚を遮断しつつ
運動は可能という状態を実現することが出来ます

神経伝達を阻害するはずなのに、なぜそのようなことが起こるのでしょうか?
その答えは阻害する神経にあります。
神経は1種類しかないわけではなく、
「自律神経、知覚神経、運動神経」の3つが存在しています。

さらに、局所麻酔は効きやすい神経と比較的効きにくい神経が存在するのです。
これら上手く使って必要な神経だけを阻害することで
局所麻酔として機能させているというわけです。


一般的には、自律神経→知覚神経→運動神経の順で神経伝達が阻害されます。
これら3つの神経のうち痛覚は知覚神経に含まれるの、
知覚神経について簡単にお話しします。

知覚神経とは
知覚神経は味覚や視覚や触覚など感覚を伝える神経です。
実は知覚神経にも種類がいくつかあり、
麻酔によって阻害される順番が存在します。
順番としては痛覚→温覚→触角の順で消失していくので、
麻酔が効いているかどうかを確認する場合は
氷の冷たさを感じるかどうかを確認し、
温覚がなくなっていれば、痛覚は消失しているはずなので
麻酔が効いているという判断が出来るというわけです。

知覚神経は神経の中では2番目に阻害される神経であるので、
それだけを阻害することが出来れば運動神経までは阻害されないので、
痛覚だけを遮断して運動は可能という状態が作り出せるというわけですね。

さて、局所麻酔として作用しているコカインについては解説は以上になります。
それでは今回の解説は以上になります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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