どうもkmです。
今回は「熟成肉がおいしくなる理由」について解説していきたいと思います。
熟成肉とは?
熟成肉とは、一定時間低温で保存した肉のことです。
熟成と呼ばれる工程を行うことで肉の自己分解を引き起こし、
うま味成分の量を増加させることでよりおいしい肉になるとされています。
熟成肉は明確に定義されたものではなく、
各々が工夫を凝らして作成されるため個性に富んでいることが特徴です。
しかし、その裏返しとして、誰でも勝手に「熟成肉」を名乗ることも出来ます。
肉を構成する因子
私たちが普段食べている肉は「骨格筋」と呼ばれるもので、
約70%が水分、約20%が筋肉タンパク質、残りを脂質や炭水化物などが占めています。
骨格筋の構成は、上の図で示す通りです。
骨格筋は多核細胞である筋繊維が多数集合した構造を取っています。
「筋繊維」と呼ばれる細長い細胞は「筋内膜」と呼ばれる構造で包まれており、
それが数十から数百程度集まって「筋束」を構成しています。
多数の筋束は膜によって包まれていて、その塊を骨格筋としています。
ちなみに、筋原線維は筋繊維の中に存在する繊維状の構造です。
また、筋肉を包む膜は網目状のコラーゲン繊維と
その隙間を埋める多糖やタンパク質から構成されています。
肉の硬さはどのように決まる?
骨格筋を構成する因子のうち、硬さに大きく関わるのは膜を構成するコラーゲン繊維です。
動物の加齢や運動によってコラーゲン繊維が架橋されるとその分だけ繊維が丈夫になります。
これが理由で、年齢を重ねた動物や運動量が多い動物の肉は固くなります。
肉のキメとは何か?
肉のキメとは筋肉の切断面に現れる筋束が示す模様のことです。
そのため、筋束が小さいほど細かい模様が描かれることになります。
また、筋束が小さいということは筋束を包んでいる膜も薄いため柔らかくなります。
よって、運動量が多いと筋肉が発達するためその分筋束も大きくなり、キメが粗くなります。
肉のサシ(脂肪交雑)とは?
肉のサシは筋細胞間、筋束間、筋肉間に沈着する脂肪のことです。
また、これが多く入っている肉のことを霜降り肉と言います。
繊維状に入っているコラーゲン繊維より脂肪は柔らかいので、
サシが入っていればいるほど肉は柔らかくなります。
肉の熟成とは?
熟成とは、「動物の屠畜後に一旦死後硬直で硬くなった筋肉を冷蔵することで
再び柔らかくなる現象あるいはそれを引き起こす方法」のことです。
食肉は当然元々動物で、それを屠畜すると食肉が得られます。
屠畜直後の筋肉は柔らかいですが、それから死後硬直が始まります。
この時点での肉は非常に硬く、保水力が低いうえ、風味に乏しくなります。
この状態の肉を低温で一定期間保存すると次第に軟化し、保水性も回復、風味も向上します。
この現象を熟成と呼んでいます。
とまぁ、特別な感じがする熟成肉ですが、熟成がどういうものか?
を考えるとスーパーで売っている肉も熟成肉ということが出来るかと思います。
屠畜して得られた肉をいったん保管して、
死後硬直が解けた状態で販売しているわけですから、
普段から食べている肉は熟成されているので、一応熟成肉になりますね。
また、熟成には種類があり、空気中で行うものをドライエイジング、
真空化で行うものをウェットエイジングと言います。
真空包装の技術が向上してからは圧倒的にウェットエイジングが増えましたが、
一部業者によってドライエイジングもなされています。
ドライエイジングでは表面にカビが生えたり、
乾燥して硬くなってしまうため、一部トリミングを行い食用に適さない部分を除去します。
ドライエイジングでは肉の乾燥により内部のうまみ成分の凝縮や
表面に繁殖した微生物による独特の発酵臭(ナッツ様の香り)が生じるようです。
微生物が繁殖しているためその部分は食べられないため、
およそ半分がトリミングロスとなってしまうようです。
また、どの微生物が有用かも未だ分かっていません。
死後硬直とは
屠畜後動物の筋肉には死後硬直という現象が発生します。
筋細胞中のCa2+濃度が上昇することで、
筋肉中に存在するアクチンとミオシンの相互作用が発生します。
これによって筋肉が収縮し続け、死後硬直が発生します。
熟成では何が起こっているのか?
熟成の機序は現在研究中で解明されているわけではないですが、
考えられていることについてお話しします。
熟成は細胞内に存在するカルパインなど細胞内タンパク質分解酵素によって
筋原線維を構成するZ線やコネクチンなどが分解されることで起こると考えられています。
これら分解酵素の働きによって組織が軟化すると考えられているようです。
また、屠畜後に蓄積するイノシン酸がアクチンとミオシンの結合を解除するという報告もあり、
これが熟成に影響している可能性も考えられています。
熟成によって肉に起こる風味の変化
熟成によって得られる味の向上については、
筋肉中に含まれるプロテアーゼやアミノペプチターゼがタンパク質を分解することで発生する
ペプチドやアミノ酸の増加が関係しているとされています。
香りについては、熟成を行うことで酵素の働きによるアミノ酸の増加から、
それらが加熱されることによって糖と反応することから揮発性の物質が増加し、
これが豊かな香りとして認識されるため変化がみられるとされています。
熟成の問題点
・ドライエイジングでは多くの微生物が表面に繁殖する
微生物が繁殖した部分をトリミングする際に可食部に微生物の付着する恐れがあります。
また、条件によっては食中毒菌が繁殖する場合もあるため、
十分注意して取り扱わなければ食中毒を発生させる可能性があります。
また、成形肉においては一枚肉とは異なり成形段階で
肉の内部に混入した微生物が内部で繁殖するため
適切なトリミングを行ったとしても取り去ることが出来ず、
これによって食中毒が発生する可能性もあります。
・熟成肉の定義が定まっていない
極端な例ではただ冷蔵庫で数日寝かせておいただけでも「熟成肉」を名乗ることが出来ます。
店舗によってこだわりが違うということはそれぞれの色が出て面白いところではありますが、
それをいいことに付加価値を付けるために不当に主張されることも考えられます。
今回はこれで以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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