バトラコトキシンとは?
バトラコトキシンは、非常に強力な毒性を持つアルカロイドです。その名前はギリシャ語で「カエル」を意味するβάτραχος(bátrachos)と、毒を意味する「τοξίνη (toxine)」に由来しています。
バトラコトキシンを含む最も有名なカエルは一般的に「ヤドクカエル」と呼ばれます。これらのカエルは上図で示すように鮮やかな警戒色で知られており、捕食者に対して毒を持っていることをアピールし、敵に捕食されないよう立ち回っています。しかし、一部の非毒性カエルもこれらの警戒色をマネして捕食者を避けている場合もあるため、派手な色の生物がすべて毒を持っているというわけではありません。
ちなみに、カエルは自身でこの毒素を生成しているわけではありません。彼らは毒を含む昆虫を食べることで体内にバトラコトキシンを取り込み、それを皮膚から分泌していると考えられています。
バトラコトキシンは、他の矢毒アルカロイドよりも生理活性が強いだけでなく、Na+チャネルに対してより特異的に反応するため研究では高い需要があります。しかし、1匹が持っているバトラコトキシンの量はわずかな上、バトラコトキシンを含むカエルの一部は絶滅の危機に瀕しており、これらの生物から毒を採取すること自体が困難です。
バトラコトキシンの毒性
これまで解説してきた中でもトップクラスの毒性を持っています。ちなみに、1µgは1mgの1/1000です。
中毒症状についても記載はしましたが、このレベルのLD50ではほぼ間違いなく中毒症状が出て死亡することになると思います。
毒性メカニズム
毒性メカニズムを解説する前に、今回は前提知識として「神経伝達の仕組み」「神経の情報伝達メカニズム」の知識が必要です。必要に応じてこちらの記事を参照してください。
バトラコトキシンは、体内の電位依存性Naチャネルに直接作用することにより、神経細胞や筋肉細胞の正常に機能できないようにします。
電位依存性Naチャネルは神経細胞や筋肉細胞の細胞膜などに存在し、これらの細胞が電気的な信号を伝達するために不可欠です。正常な状態では、このチャネルは細胞内外のNa+の流入と流出を厳密に制御し、細胞の電位を適切に変動させています。しかし、バトラコトキシンがチャネルに結合するとチャネルが開いた状態に固定され、Na+が細胞内に流入し続けることとなります。
このNa+の流入は細胞の脱分極を引き起こし、正常な電気的信号の伝達が不可能になります。結果、神経細胞は信号を正しく伝達できなくなり、それから先の組織に麻痺が発生します。
そして、特に心臓においては致命的な影響をもたらします。心筋細胞の活動はNaチャネルの活性に依存しており、バトラコトキシンによるチャネルの開放はリズムを乱し、不整脈や心室細動を引き起こす可能性があります。最悪の場合、心不全や心停止に至ることもあります。
バトラコトキシン×テトロドトキシン
電位依存性Naチャネルと言えばテトロドトキシンですが、テトロドトキシンはチャネルを開けないように作用しますが、バトラコトキシンは開いたまま固定します。この二つが同時に作用するとどうなるかについて考えていきたいと思います。
機序的には作用するため打ち消し合っていい感じに機能すると思いきや、摂取量にもよりますが、おそらくどちらの毒性も発揮されて非常に残念な感じになると思われます。
「電位依存性Naチャネル」には実は複数の種類が存在しています。それぞれのNaチャネルは構造や発現部位、機能が異なります。そして、テトロドトキシンに対する耐性についても異なります。ただし、低いと言っても全く効かないわけじゃないため、多少効きにくいくらいに思って頂ければ大丈夫です。そして、バトラコトキシンに感受性があるのは「1.8」であると言われています。
つまり、1.8はテトロドトキシンに対しては多少耐性を持っていますが、バトラコトキシンは作用する受容体というわけです。
ここで、両方同時に摂取した場合のことを考えてみます。
まずは1.8から考えていきます。
1.8は大したことがない量であればテトロドトキシンに耐性があるため多少は耐えますが、そこにバトラコトキシンが作用するため1.8はバトラコトキシンにやられてしまいます。そして、それ以外のチャネルに関してもテトロドトキシンによってやられてしまいます。つまり、両方効いてしまうというわけです。
また、それぞれの結合するポイントが異なるようなので、チャネルに先に結合した方だけが作用すると思われます。これは、毒素が結合したチャネルは構造が変化してしまうため、あとから作用する物質が結合するポイントが無くなってしまっているのではないかと考えたためです。
テトロドトキシンとバトラコトキシンがどちらかしか作用しないとしても、どちらも作用するとしても恐らく生物は死亡するので生き物には取っては大した違いはないのかもしれません。
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