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ムスカリンとは?
ムスカリンは1869年にドイツの化学者オズワルド・シュミーデバーグとリチャード・コッペによって、「ベニテングタケ」というキノコから発見された「アルカロイド」です。アルカロイドとは、窒素原子を含んだ塩基性の天然有機化合物の総称です。
ムスカリンの名前はベニテングタケの学名「Amanita musucaria」に由来しています。ムスカリンが最初に発見されたのがテングタケ属のキノコからで、当初はベニテングタケの幻覚作用に関わっていると考えられていました。しかし、ベニテングタケには生重量で0.0003%程度しかムスカリンが含まれていません。現在では、ムスカリンの含有量が少なすぎるため、ベニテングタケの幻覚作用にムスカリンは関係ないだろうと考えられています。
ちなみに、ベニテングタケでムスカリンの中毒になるためには約100~120kgのベニテングタケを摂取する必要があります。当然現実的ではない上、そもそもベニテングタケに含まれる毒成分である「イボテン酸」を大量に摂取することになるため、ベニテングタケでムスカリン中毒になることは出来ないでしょう。
ムスカリンのLD50
LD50の数値はかなり低めであるため、ムスカリンの持つ急性毒性はかなり強力であることが分かります。
中毒症状
ムスカリン中毒は、摂取後15-30分後で発汗、涙や唾液の分泌増加が現れる特徴があります。
大量に摂取すると、これらの症状の後に、腹痛、吐き気、下痢、瞳孔の縮小、呼吸困難などが続くことがあります。これらの症状は通常2時間以内で収まると言われています。ムスカリンが心臓に作用すると、血圧の低下や収縮力の減少を引き起こし急性循環不全となる場合や、呼吸不全が発生する可能性があります。様々な症状が発現しますが、死亡する可能性はまれと言われています。
作用機序
ムスカリンは副交感神経を過剰に興奮させることで体のバランスを崩し、毒として作用します。ここからはこの作用機序を解説していきます。
自律神経系とは?
過去記事で神経系についての解説をしているので、詳しくはそちらを参照してください。
自律神経系は、血圧や呼吸等生命維持に必要な機能を調整している神経系です。それぞれの組織は、交感神経系と副交感神経系のどちらかがメインで制御されていて、基本的にそれぞれの機能は拮抗しています。簡単にそれぞれの神経系について解説していきます。
交感神経系
交感神経系は体を緊急事態に適応できるように調整します。よく闘争・逃走するときに機能するという風に説明されます。交感神経系が優位になると、心拍数を増やし、心臓の収縮力を高め、呼吸がしやすくなるように気道を拡張するなどの変化が発生します。逆に、消化や排尿など、緊急時にあまり重要でない機能は抑制されます。
副交感神経系
副交感神経系は体をリラックスした状態にする機能を持ちます。日常的な状況下で体内プロセスを制御しています。副交感神経系は、エネルギーを温存し体を回復させる役割があります。副交感神経系が亢進すると、心拍数の減少、血圧の低下、消化管の活動亢進などの変化が発生します。
自律神経系における主要な神経伝達物質は「アセチルコリン」と「ノルアドレナリン」があります。それぞれの受容体には様々なサブタイプがあり、それぞれ分布している組織が異なります。下図はその一部を取り上げたものになります。
ムスカリンの作用メカニズム
ムスカリンは、ムスカリン性アセチルコリン受容体に結合し副交感神経を興奮させる作用を持つため、副交感神経を強制的に活性化することが出来ます。ムスカリンが結合することで必要に応じて組織の機能を調整していた自律神経が正しく機能しなくなってしまいます。
副交感神経が過剰に興奮すると、上図の赤字で示した作用が強く発現することになります。例えば、副交感神経の過剰な興奮によって気管支が収縮かつ気管支の分泌液が大量に分泌された結果、呼吸困難が発生したり、心臓に作用して心臓の収縮力を大きく弱めることで循環不全が発生する可能性があります。他にも、腸の動きを過剰にする関係で腹痛や吐き気、下痢が発生したり、分泌液を増やす関係で涙が出たり、よだれが出たりする場合もあります。
それでは、今回の解説は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
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