永い眠りにつかせる「バルビツール酸系」

解説

バルビツール酸系とは?

バルビツール酸系とは、催眠・鎮静・抗てんかん作用を持つ物質群のことです。中枢神経抑制作用を持つ抗精神病薬でもあります。有名どころとしては、フェノバルビタール、アモバルビタール、ペントバルビタールなどが挙げられます。

バルビツール酸系は1903年に初めて合成された物質で、それからしばらくの間睡眠薬や鎮静剤として使用されていました。しかし、治療に使用する量と中毒量が比較的近いため、大量に服用すると死亡のリスクが高い薬でもあります。

実際に1970年代までは薬物関連の死亡の上位に存在していましたが、睡眠薬としては他の有力な薬が開発されると、次第にバルビツール酸の使用は減少していきました。それに伴い死亡者は減少傾向にあります。現在は非ベンゾジアゼピン系、ベンゾジアゼピン系の薬などが用いられることが多いです。しかし、そのほかの面では有用な部分が存在するため、それを目的に使用されている場合があります。

バルビツール酸系の歴史

最初に合成されたバルビツール酸系の薬は、ドイツの化学者のエミール・フィッシャーとヨーゼフ・フォン・メーリングらによって1903年に合成された「バルビタール」と言われています。当時、睡眠薬として「ベロナール」や「メディナール」という名前で販売されました。

当時はろくな睡眠薬がなく、臭化物や抱水クロラールという物質が用いられていましたが、それらに比べるとバルビタールは味もマシで、治療域と中毒域が近くないため有用であると考えられたようです。そのため、バルビツール酸系の薬はこれまでの薬に比べて優秀であったため、それなりに人気が出ました。

それから、数々のバルビツール酸系の物質が合成され、1911年にフェノバルビタール、1930年にチオペンタールが合成されました。1912年にはフェノバルビタールをてんかんの患者の入眠に用いたところ、偶然抗けいれん作用が発見され、現在も必要に応じて使用されています。

しかし、長期服用によって耐性がつき必要量が増えていきがちなこと、速効性がないため眠れない、といった理由で大量に服用がされた結果、中毒死した事例が発生したことが問題となりました。現在ではその依存性の高さ、耐性のできやすさ、過量服用した時の危険性の高さから睡眠薬としての使用はほとんどありません。

また、芥川龍之介が自殺に用いたこと、マリリン・モンローの死因がこれの過量服用であったことが知られています。このような特性を持っているため、死刑の執行に用いられる場合もあるようです。

それからしばらく後の、1960年代にはバルビツール酸系の毒性を改善した「ベンゾジアゼピン系」が登場したことにより使用頻度は次第に落ちていきました。

バルビツール酸系の毒性

毒性の話をするにあたって物質を特定した方がやりやすいため、今回は最初に開発された「バルビタール」について解説していきます。

「バルビタール」のLD50を見ていきます。

特に呼吸抑制・停止が死因に直結します。

バルビツール酸系の作用機序

ここからはこの機序について解説していきます。

神経伝達の仕組み

神経伝達の詳細ついては過去記事を参考にして下さい。

https://www.yukkurikm.site/230211-2

神経伝達は大きく分けて「伝達」「伝導」によって行われています。

伝達 電気信号が一つの神経細胞を銅線のようにして伝っていくこと

伝導 他の神経細胞へ信号を伝達することを言います

それぞれの神経細胞は直接連結しているわけではなく、わずかな隙間があります。そのわずかな隙間を電気信号はそのまま通れないため、その間では「神経伝達物質」が利用されています。

神経伝達の流れとしては、片方の神経から電気信号が伝わってきて、その神経細胞の終末に到達すると、そこから神経伝達物質が放出され、次の神経細胞の表面に存在する受容体に結合するとそこから再度電気信号が発生し、神経細胞を伝っていきます。

GABA・GABAA受容体とは?

神経伝達物質には20種類程度が存在すると言われていて、有名どころにはドパミン、ノルアドレナリン、GABA、グルタミン酸、セロトニン等が挙げられます。これらの神経伝達物質はそれぞれ持っている機能が異なっており、それぞれの神経伝達物質が協調して作用することで正常な精神活動が行われています。今回はそんな神経伝達物質のうち、「GABA」とその受容体である「GABAA受容体」が関係してきます。

GABAA受容体はGABA受容体の3つのサブタイプのうちの一つで、中枢・末梢神経系の抑制性の情報伝達の大部分を担う受容体です。

GABAA受容体はGABAの結合によって開口するClチャネルを内蔵しています。GABAA受容体にはアルコールやベンゾジアゼピン系・バルビツール酸系の薬物、様々な物質が結合するポイントが存在しています。これらの物質が作用することで、GABAがGABAA受容体へ作用しやすくなり、受容体の作用が発揮されます。

バルビツール酸系の薬はGABAA受容体に存在するバルビツール酸結合部位に結合し、GABAのGABAA受容体への親和性を高め、GABAA受容体の機能を亢進させます。GABAA受容体が活性化するとClチャネルが開口し、Clが神経細胞に流入することで神経の興奮が抑制されます。神経の興奮が抑制されることによって、催眠作用が出たり、てんかんを抑えたりといった効果が表れます。

バルビツール酸系を大量に服用すると

高濃度のバルビツール酸系はそれ単独でCl-チャネルを開口します。GABAA受容体を強制的に開放し続けることによって、細胞内にCl-が流入し続けることになります。したがって、通常よりも超強力に神経抑制作用が発揮されることになります。

特に、中枢神経系の抑制作用が強力に発揮されることになりますが、呼吸中枢が過度に抑制されることによって発生する「呼吸抑制・呼吸停止」が死因になります。他には、心筋の抑制作用によって循環が弱ることで低血圧、橋の体温調整機能を抑制することによって、低体温が生じます。

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