圧倒的酸欠力「ニトログリセリン」

解説

以前ニトログリセリンについてはある程度解説していましたが、せっかくなので毒性についても解説します。以前の解説はこちらから↓

今回の動画版はこちら↓

ニトログリセリンの毒性

まずは、ニトログリセリンのLD50についてみていきます。

LD50をご存じない方は、先にこちらを見てください↓

ニトログリセリンLD50
100 mg/kg・体重(ラット経口)

メトヘモグロビン濃度によって症状は異なります。メトヘモグロビンについては後で解説するので、ここでは服用すればするほど増えるものとお考え下さい。ほとんどは死に至ることはありませんが、死亡例は存在しています。

作用機序

代謝によって生じる亜硝酸塩が、ヘモグロビン中の2価鉄イオンを酸化し、「メトヘモグロビン」に変化させることでヘモグロビンの酸素運搬能力を低下させる。

ニトログリセリンの代謝経路

体内に吸収されたニトログリセリンは、吸収後に肝臓にある「硝酸塩還元酵素」によって代謝されて、亜硝酸塩へと代謝されます。この亜硝酸塩から一酸化窒素が遊離し、一酸化窒素が血管平滑筋を弛緩させることで血管が拡張し、狭くなった血管を広げて血液を届けることが出来るようになります。

薬として機能させる場合はごく少量しか服用しないため、少量が代謝によって無効化されてしまうことが問題になります。しかし、ここではとてつもない量を服用するので、代謝しきれずに全身に亜硝酸塩が移動してしまうことが問題になってきます。

赤血球とは?

「赤血球は体に酸素を運搬するものである」と学校では習いますが、運搬には「ヘモグロビン」という物質が欠かせません。ヘモグロビンは酸素分子を結合する機能を持っており、これに酸素を結合させることで赤血球は体中に酸素を運んでいます。ヘモグロビンはヘムとグロビンに分けることが出来、酸素を運搬するときに特に重要な働きをしているのが、ヘムにある「2価の鉄イオン」です。

メトヘモグロビンの生成

鉄イオンには2価イオンと3価イオンが存在することが知られています。ヘモグロビンの鉄イオンは「2価イオン」の状態で維持されていますが、鉄イオンは自然に酸化して「3価イオン」に変化してしまいます。三価の鉄イオンになってしまうと、ヘモグロビンは「メトヘモグロビン」となってしまい、これは酸素運搬能力を持ちません。

そのため、これが増えると体内に酸素を供給する能力が落ちてしまいます。そのまま放置していることは得策ではないので、体には自然に出来てしまうメトヘモグロビンをヘモグロビンに戻す酵素が存在してヘモグロビンの状態を保つように機能しています。これらの活躍により、体内のメトヘモグロビン濃度は常に1%以下に抑えられています。

亜硝酸塩が大量に増加すると?

亜硝酸塩は鉄を酸化する作用を持っています。そのため、ヘモグロビンに含まれる鉄イオンを「2価」から「3価」にしてしまうのです。その結果、ヘモグロビンはメトヘモグロビンに変化し、酸素運搬能力を失います。ヘモグロビンの割合が増えた状態を「メトヘモグロビン血症」と呼びます。

酸素供給能力の低下

この図は酸素解離度曲線というもので、ものすごく簡単に説明すると、酸素の濃度とヘモグロビンと酸素の結合割合を示したものです。

酸素は、赤血球に含まれるヘモグロビンの2価の鉄イオンに結合して運搬されています、これは酸素の豊富な部分では酸素と結合しやすく、周りに酸素が少ない部分では酸素を手放しやすくなるような性質を持っています。そのため、呼吸によって外から取り入れた空気は酸素が豊富のため、そこから酸素を結合し、体の酸素の足りない部分で酸素を離して酸素を供給してやるということが可能になるのです。

メトヘモグロビンが増加するとこれに異常が発生します。メトヘモグロビンの割合が増加すると、酸素とヘモグロビンの結合を強化されるということが知られています。すなわち、酸素がヘモグロビンから離れにくくなってしまうわけです。

体の酸素供給は、酸素が豊富な環境で酸素を結合し、足りない部分で手放すことで問題なく機能していたわけですが、酸素とヘモグロビンの結合が強固になると、酸素が足りないところで手放す量が減り、組織に届く酸素量が少なくなります。その結果、体内のいたるところが酸欠となってしまいます。

酸素はエネルギー産生になくてはならない因子であり、これが欠乏することは機能を十分果たせなくなる、もしくは生存が出来なくなる等大きな問題になります。当然、細胞で体が構成されている生物にとってこれは死活問題になるというわけです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました