カドミウムとは?
カドミウムは1817年にドイツのシュトロマイヤーによって発見されました。原子番号48番の金属元素です。環境中に広く存在するため、実は食品や水には微量のカドミウムが含まれています。
名前の由来は諸説あり、フェニキアの伝説上の人物である「カドモス」に由来するであるとか、ギリシャ語で菱亜鉛鉱を意味する「Kadmeia」に由来するという説もあると言われているようです。
昔から顔料、メッキ、充電式電池や合金などの原料として広く使用されてきました。しかし、カドミウムには毒性があることから、最近はその利用を敬遠されがちになっています。特にヨーロッパではカドミウムを含む製品に関して厳しい制限が課されています。
イタイイタイ病とは
イタイイタイ病は富山県の神通川下流域である富山県婦負郡婦中町(現在の富山市)で発生した日本の四大公害病の一つです。神通川の上流にあった三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所の排水に含まれていたカドミウムが原因で発生しました。患者が「イタイイタイ」と泣き叫ぶことからこの名前が付いたと言われています。
最初は腰や肩、膝の痛みなどから始まります。症状が重くなると骨折を繰り返すようになり、最終的には全身の痛みによって動けなくなってしまうことが特徴です。意識ははっきりしているため、痛みに苦しみながら衰弱し、死亡するという恐ろしい疾患です。
明治時代の中頃(1868~1912年) 神通川上流は16世紀ごろから鉱山開発が行われていた地域であり、その排水が下流に流されていたことが影響していたのか、小規模ながら稲の生育不良など何かしらの影響が出ていた、という記録が残っています。既にこの時代にはカドミウムによる影響が出てきていたのかもしれません。
イタイイタイ病の表出 そのような状態が続き、事態が表にでたのが1920年です。 1920年に農商務大臣、富山県知事に対して、 「神岡鉱業所事業の勃興に伴い、土砂に流入する田地の稲は発育に変調をきたし、完全に登熟しない。鉱山経営者に対し除害施設を講ぜしめられたい。」 という建議書が提出されました。これによって調査が行われ、鉱業所に改善が命じられました。 また、富山県によって取水口に沈殿池を設けるという対策が取られました。これは一定の効果は示しましたが、満州事変などにより神岡鉱業所の需要が高まると廃水も増加し、最終的には機能しなくなってしまい、被害は続きました。
原因究明 1955年8月4日に、熊野村の開業医である萩野昇が記した「イタイイタイ病」を紹介する記事が富山新聞に記載されました。 当初は栄養失調であるという説もありましたが、1961年に患者の組織と神岡鉱業所の排水からカドミウムが検出されている、ということを理由に、萩野昇と吉岡金市がイタイイタイ病の原因はカドミウムであると発表しました。 そして1963年、ついに厚生労働省と文部科学省が原因究明のために調査に乗り出しました。その調査の結果、1968年にイタイイタイ病は排水に含まれていたカドミウムが原因で引き起こされたと断定しました。
現代 1968年に裁判が始まり、2013年12月に原因企業と被害者団体は全面解決の合意書を交わしました。 現在の患者の数ははっきりわかってはいませんが、200名程度が認定されています。
カドミウムの毒性
自然環境中に存在するカドミウムが農畜産物に蓄積し、それを摂取することで体内に取り込まれています。そのため、常にカドミウムが微量体内に入ってくることになりますが、体内にはカドミウムを排泄する機能が存在しており、通常はそれによってカドミウムの毒性を抑えています。しかし、高濃度のカドミウムを長期的に摂取し続けると、体のカドミウム処理能力を超えてしまうため徐々に蓄積し、毒性が発揮されてしまいます。イタイイタイ病はそのようにして発生したのです。
特に慢性毒性についてはカルシウムに関するもの、腎臓に関するものが多いということが分かります。
カドミウムの作用機序
急性の毒性は付着した部位に対する刺激作用でがあると言われています。これについて具体的な機序についてははっきりしていないようなので、今回はわかりやすい慢性の毒性についてみていきます。
慢性毒性の作用機序
カドミウムの慢性毒性の機序 ・近位尿細管を傷害し、カルシウムなどの尿中排泄を増加させる。 ・腎尿細管での活性化ビタミンDの産生を抑制する ・骨細胞のカルシウム取り込みを阻害、破骨細胞を活性化し、コラーゲン基質を分解する。
等特にカルシウムを中心としてかなり多くの部分に作用します。
腎臓の機能
腎臓には血液中の不要な物質をろ過し、体外に尿として排泄する働きがあります。
腎臓の組織の一つである糸球体で血液がろ過され、「原尿」が作られます。原尿はこの時点で1日に150L程度あると言われています。当然これをそのまま排泄していたのでは体を正常な状態に維持することは不可能です。
そのため、原尿から必要なものを回収し、必要ないものを濃縮して排泄することが必要になります。こうして最終的に残ったものを我々は尿として排泄しているわけです。
その回収は腎臓の組織のうち「尿細管」で行われています。尿細管のなかでも、回収は全体の7割程度が「近位尿細管」で行われていると言われています。近位尿細管では、アミノ酸やブドウ糖といった栄養素、ミネラルの再吸収が行われていて、必要な分だけ再回収することで体内の水分量、各ミネラル濃度やpHを適正に保つことが出来ています。
腎臓とカドミウム
カドミウムは主に尿細管のうち近位尿細管に蓄積し、近位尿細管の細胞に毒性を発揮します。その結果、近位尿細管を中心に行われている「必要なものの再吸収」が行えなくなってしまいます。それによってブドウ糖、アミノ酸などの栄養素をはじめ、ミネラルの再吸収も出来なくなります。その結果、これらの要素が不足することになります。
カドミウムとビタミンD
ビタミンDは腸管からカルシウムやリンの吸収を促進したり、腎臓でのカルシウムの再吸収を増加させるといった作用を持っているビタミンです。食品中にも含まれていて、人体の骨を正常に維持するために必須の因子です。
しかし、食品中に含まれるビタミンDは不活性型のため、体内で活性化させてやる必要があります。活性化は2回に分けて行われていて、一回目は肝臓、二回目は腎臓で行われています。そして、二回目の活性化は近位尿細管に存在する「1α-水酸化酵素」によって行われています。
カドミウムは近位尿細管の細胞に蓄積し、それを傷害してしまいます。近位尿細管が障害されると、ビタミンDを活性化させる1α-水酸化酵素の働きも低下させてしまいます。その結果、活性化ビタミンD自体も減少し、カルシウムの吸収量が低下、カルシウムの再吸収量も低下します。
カルシウムが減少するとどうなる?
カルシウムは体内の機能維持や骨や歯の形成など生命維持に非常に重要な働きをしています。特に酵素の機能維持にも関わっていたりするので、体は何とかして血中のカルシウム濃度を保ちたいわけです。
そして、体内には「骨」という大量にカルシウムをため込んだ組織があるわけです。これを使わない手はありません。
骨を破壊することでそこからカルシウムを取り出し、何とか血中濃度を維持するわけです。しかし、骨は破壊すればするほど強度が落ちていくことになります。これによって骨が弱体化してしまうため、イタイイタイ病ではちょっとしたことで骨折が発生し、非常に強い痛みが発生していたというわけです。
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