アセトアミノフェンの急性毒性

解説

アセトアミノフェン概要

アセトアミノフェンは広く用いられている解熱鎮痛剤です。古くからある有用な解熱鎮痛剤であるため、服用したことのある方は多いのではないかと思います。使用経験の豊富さと安全性の高さから現在でも幅広く用いられています。最近だと、新型コロナウイルスの解熱剤として使った方もいらっしゃるのではないかと思います。

多くの市販薬に配合されており、容易に手に入れられるためODされる頻度の高い薬物でもあります。市販薬としては、新セデス錠、ノーシン錠など様々挙げられます。

アセトアミノフェンの作用機序ははっきりとはわかっていませんが、
痛覚閾値を上げることで鎮痛作用を、毛細血管を拡張させることで解熱作用がもたらされる
と言われています。

アセトアミノフェンの歴史

アセトアミノフェンは1877年にアメリカで初めて合成されました。また、1852年にフランスの化学者によって合成された説もあるようです。

19世紀の半ば頃、コールタールから分離されるアニリンが合成染料の原料として用いられていたところ、偶然、アニリンをアセチル化した「アセトアニリド」に鎮痛効果があることが発見されました。
しかし、アセトアニリドは毒性が強かったため、広く用いられることはありませんでした。

その後、アセトアニリドを元に開発された「フェナセチン」が広く使われるようになりました。

アセトアミノフェンはアセトアニリドとフェナセチンに構造の類似した物質ではありますが、しばらくはなかなか広まりませんでした。

1948年にアセトアミノフェンは既に解熱鎮痛薬として知られていた「アセトアニリド」と「フェナセチン」の活性代謝物であることが明らかになってから、解熱鎮痛剤として広く使用されるようになりました。

しばらくすると、フェナセチンは長期間大量に服用したことで腎障害膀胱腫瘍などのリスクが明らかになったため、1980年代にはほとんどの国で使用されなくなりました。日本でも2001年に製造中止になり、現在は使用されていません。

フェナセチンの活性代謝物であるアセトアミノフェンではそのような現象は認められていないため、フェナセチン自体に問題があったのではないかと考えられています。

LD50

LD50についてはこちらで詳しく解説しています。

https://www.yukkurikm.site/220424-2

数値を見る限り、毒性は高くないことが分かります。
ここまで広く薬として用いられているので当然ではありますが…。

アセトアミノフェン中毒症状

反応は時間によって四段階に分けることが出来ます。

第一相
アセトアミノフェン大量服用後数時間程度で発現し、それから一日から二日程度続きます。

症状
無食欲、悪心・嘔吐が発生します。また、体温中枢に作用して、発汗が発生することもあります。
この段階では肝障害は発生しないようです。
第二相

大量服用後、一日から三日程度で発生します。
第一相の症状が多少緩和されますが、肝障害が生じ始めます。
第三相

大量服用後、三日から五日程度で発生します。

症状
肝細胞が壊死し、黄疸、低血糖、肝性脳症、血液凝固異常などが発生することがあります。
そして、肝障害のピークはこの段階で、少数に腎障害も発生することがあります。
第四相

大量服用後七日から八日程度で生じます。
肝機能は大抵正常化されるが、重症例では急性肝不全や死亡する例もあります。

肝機能障害を生じる可能性はありますが、きちんとした治療が行われれば肝不全、死亡することは稀です。

アセトアミノフェンの作用機序

ここで解説するアセトアミノフェンの機序は毒性に偏ったもので、薬としての作用機序とは全く異なることにご注意ください。

アセトアミノフェンの作用機序は以下のようになります。

アセトアミノフェンの代謝物の一種である「Nアセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI:N-acetyl-p-benzoquinonimine)」が、細胞内の酵素などタンパク質と反応し、細胞死がもたらされる。

アセトアミノフェンの代謝

通常、アセトアミノフェンは吸収された後、63%はグルクロン酸抱合を受け、34%は硫酸抱合を受けてます。その後、水溶性の物質に変換されて尿中に排泄されます。

今回問題になるのはCYP2E1が関係する代謝経路のため、こちらについてもう少し細かく解説していきます。

アセトアミノフェンは5%未満ですが、チトクロームP450(CYP2E1)によって酸化を受けて、反応性が非常に高い「NAPQI」に代謝されてしまいます。NAPQIは速やかに肝細胞内のグルタチオンと結合して無毒化されて、最終的にアセトアミノフェン-3-メルカプツール酸となり、尿中に排泄されます。

アセトアミノフェンを大量に摂取した場合

アセトアミノフェンを大量に摂取すると、グルクロン酸と硫酸が枯渇するため、チトクロームP450系による代謝が優勢になってきます。したがって、チトクロームP450系によって、NAPQIが大量に生産されることになります。

そのため、NAPQIを解毒するためにグルタチオンが大量に消費されます。

アセトアミノフェンとアルコールの併用

 アルコールに含まれるエタノールを慢性的に摂取すると、活性酸素の発生が亢進し、炎症が引き起こされることが明らかになっています。グルタチオンは活性酸素を還元して中和する作用を持ちます。そのため、アルコールを摂取するとグルタチオンが消費されることになります。

また、エタノールを継続的に摂取すると、「CYP2E1」の発現が亢進します。また、風邪薬を服用し続けたことで、グルクロン酸・硫酸が枯渇しているため、CYP2E1の寄与が大きくなります。

事件では慢性的にエタノールと風邪薬を摂取させられていたため、CYP2E1の発現亢進、グルタチオンの枯渇によってNAPQIが大暴れできる環境が整えられていたわけです。

それでは今回は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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