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「酔う」という現象
「酔う」という現象を分解すると、「お酒を飲む」「エタノールが消化管から吸収される」「血中エタノール濃度が上昇する」に分けられるかと思います。酔いは血中エタノール濃度が上がることで中枢神経の機能が抑制されることで発生します。具体的な症状についてはお酒を飲んだことがあるならご存じかと思いますので割愛します。
今回は酔うという現象を薬物動態の観点から見てみたいと思います。
エタノールの薬物動態
薬物の体内動態を理解するうえで4つの重要な概念があります。それが、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)です。これらの頭文字を取ってADMEと略します。今回はエタノールのADMEについてみていきましょう。
吸収(Absorption)
口から入ったエタノールは摂取後1時間以内に吸収されます。吸収部位は胃と小腸で、胃では2割、小腸で8割と言われています。
吸収に影響する因子は、同時に摂取した食物・薬物や、胃の内容物の排出速度を遅らせる疾患などが挙げられます。
分布(Distribution) エタノールは単純な構造の上、水溶性脂溶性両方を持ち合わせているため、体内のどこにでも分布します。血液脳関門を貫通し、胎盤さえも貫通し胎児に移行します。そのため、妊娠中の方は飲酒は少量でも避ける必要があるわけです。
代謝(Metabolism)
大部分の代謝は肝臓に存在するアルコール脱水素酵素(ADH)とミクロソーム・エタノール酸化系(MEOS)で行われています。通常はADHが中心となりますが、MEOSはアルコールを常用していると徐々に強くなり、依存症患者ではこちらの役割が大きくなります。およそ活性が10倍程度まで強化されることがあるようです。
ちなみに、胃にもADHが存在するということが分かっています。
ADHで代謝されたエタノールはアセトアルデヒドとなり、アセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に代謝されます。酢酸は最終的にアセチルCoAという物質に代謝されるわけですが、これがクエン酸回路やβ酸化といわれる代謝反応経路に乗ることで細胞内でエネルギーとして活用されることになります。そのため、糖類ゼロとしているお酒にもカロリーがあるというわけです。
日本人含む多くのアジア人ではALDHの活性が低い人が多い傾向にあります。そのため、アセトアルデヒド代謝能力が低いので、アセトアルデヒドの影響が出やすいのです。
排泄(Excretion)
1割程度は腎臓と肺から排泄されると言われています。残りの9割は肝臓で代謝をされます。
肺から排泄されるエタノールは血中濃度の一定割合になるので、呼気に含まれるエタノール濃度を測定することで血中エタノール濃度を推定することが出来ます。これを利用したのがアルコール呼気試験です。呼気中のアルコールはどうも血中濃度よりも早く消失する傾向にあるらしいので、呼気中に検出された時点でそれなりの血中濃度があるということになるっぽいですね。
以上エタノールのADMEについては以上です。
何種類も飲むと悪酔いしやすくなる話
いろんな種類のお酒を飲むと悪酔いしやすくなる、という話があります。ちゃんぽんしたとか言われているのを聞いたことがあります。
お気づきの方も多いと思いますが、これには根拠がありません。
そもそもどんなお酒だろうが「エタノールが含まれている」という意味では違いがないので、複数種のお酒を飲んだからといって酔い方が変わるわけではありません。
ただ、種類が変わると飲む量が増えやすくなるというのは経験的に分かって頂けると思います。味を変えると案外まだ飲めたりするじゃないですか。それで飲む量が増えた結果、悪酔いしてしまうということがあるかもしれません。
本来は飲んだアルコール量が多いにも関わらず、複数種飲んだせいと誤認されてこのような迷信が生まれたのではないかと思います。
空腹時にお酒を飲むと酔いやすい
アルコールは胃と小腸で吸収されるわけですが、空腹時は当然消化管には何も入ってないので、消化管から速やかに吸収を受けることになります。したがって、入ってくるスピードが高くなるので血中濃度が高くなりやすい状態です。血中濃度が上がるともちろんエタノールの中毒症状が出るので、酔いが回ったと感じるわけです。
飲みなれている皆さんは経験的にご存じであると思いますが、アルコールの吸収を穏やかにするためには、食事と一緒に摂取すること、ゆっくり飲むことが重要かと思います。
お酒の一気飲みの話
吸収の部分で話をしたと思いますが、アルコールは摂取してから血中濃度が上がるまである程度ラグがあります。これはアルコールを飲んだことがある人ならご理解いただけると思います。飲んで2秒で寝るとかそういう事はないはずです。
一気飲みと普通の飲み方の最も大きな違いは、一気に大量のアルコールが体内に入ってくることです。
一度に大量にエタノールが吸収されて、一気に血中濃度が上昇し、中毒症状を発現することになります。同じ量でもゆっくり飲んでいるのであれば同時に代謝も行われるので一気に飲んだ場合に比べて血中濃度は大きく上昇しにくいですが、一気飲みでは代謝は間に合っていません。
さらに、アルコールを摂取したことがあまりない人は自身のキャパシティを知らないということも大きな問題です。どの程度飲むと体調が悪くなるか、というのは体質が大きく関わってくるので経験が必須となります。その経験もないまま一気飲みをすると、キャパシティの数倍飲んでしまう場合があります。キャパシティの数倍を飲んでしまうと血中濃度が急上昇し、急性アルコール中毒となってしまうわけです。
それなら飲み慣れている人なら大丈夫なのかという話ですが、飲み慣れている人も、ゆっくり飲んだ時に代謝もあってある程度処理しつつ飲んでいる状態でのキャパシティで飲むと代謝分だけ過量になるので、やはりすべきではありません。
以上よりアルコールの一気飲みは危険です。アルコールは美味しいご飯と一緒にゆっくり楽しみましょう。一気飲みでは味も分かりませんし、もったいないのでやめてください。日本酒美味しいので美味しいご飯と一緒に是非…。
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