漢方薬や民間薬は西洋医学で用いられる医薬品に比べて効果が弱く、副作用がないと思う方は多いと思いますが、それは常に正しいとは限りません。とんでもない話ですが、時折それらに西洋医薬品が混入している場合があるためです。ここで、西洋薬と漢方薬がどちらも利用されている台湾で行われた調査の結果を紹介します。副作用が発生した薬を収集し分析した結果、2割程度に西洋医薬品が混入していたという調査結果があります。副作用が出たもののうちで2割なので、市販に多く存在するというわけではありませんが、怪しいものは確かに存在するということが分かります。
このような医薬品の混入は製造段階で誤って混入する可能性は低いため意図的に行われている可能性が高いです。恐らく、他の薬との差別化を目的として意図的に混入されていると考えられます。
西洋医薬品は効果がはっきりしている分副作用も強く出る場合もあります。そのため、病状に合わせて用量を調節したり、副作用を早期に発見してその対策を行ったりなど医師の診察の元慎重に使用する必要があるわけです。
しかし、医薬品の混入している製品については混入している医薬品の種類も用量も不明です。したがって、知らず知らずのうちにこのような医薬品を使用している場合、深刻な副作用の発現に気づかず重大な健康被害を発生させてしまう可能性があります。当然危険なので、このような医薬品は存在すべきではありません。
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糖尿病の薬「グリベンクラミド」が混入していた事例
糖尿病を治療中の50代男性が、友人の勧めで中国で「消渇丸」という薬を購入し服用しました。男性は病院から糖尿病の治療で薬を処方されていて、それと併用したところ、昏睡状態になり、数日入院し退院するということを何度も繰り返していました。「消渇丸」を分析したところ、医療用医薬品である「グリベンクラミド」が検出されました。グリベンクラミドは糖尿病治療薬で、商品名で言うと「オイグルコン・ダオニール」です。
男性は既にグリベンクラミドを服用していたため、病院処方分と消渇丸に混入していた分を合わせると、男性は1日当たり約7.8mgのグリベンクラミドを服用していた計算になります。グリベンクラミドは病状によって細かい用量調整が必要になる薬で、血糖値を強力に下げる作用があるため適当に使用すると本事例のように低血糖症状を引き起こします。
ちなみに、グリベンクラミドの常用量は1日当たり1.25~2.5mgで、最大投与量は10mgとなっています。今回の7.8mgはかなり高い用量であることが分かります。
ネットで「消渇丸」を検索したところ、個人輸入代行らしきサイトがヒットしました。成分には思いっきりグリベンクラミドと記載がありました。副作用は報告なしとありましたが、ちょっとでも知識のある方ならグリベンクラミドをろくな用量調節もせずに使ったらどうなるかなんて予想がつきそうですが。多分、健康な方なら丸薬数粒で低血糖を引き起こすんじゃないでしょうか…。こんな危険なものが誰の役に立つのか甚だ疑問です、全く購入はお勧めしません。
ステロイド等複数の医薬品が混入していた事例
7歳の男児がアトピー性皮膚炎と気管支喘息で薬を服用していましたが、症状はあまり改善していませんでした。それを気にした祖母が中国に行き、呼吸器専門機関で「抗咳喘丸」を処方してもらい、それを男児に服用させたようです。その結果、症状は著しく回復しました。しかし、その1か月後、男児の顔が丸くなっていることに気づき、病院を受診することにしました。そこで抗咳喘丸を分析した結果、ステロイドである「ベタメタゾン」と気管支拡張剤である「テオフィリン」が検出されました。しかし、これの成分表示には両者の名前はありませんでした。
アトピー症状の急速な改善はベタメタゾンの抗炎症作用によるものと思われます。ベタメタゾン錠の添付文書では「重症例以外には極力投与しないこと」とありますが。
気管支喘息の改善は、ベタメタゾンとテオフィリンの両者の効果が出たためと考えられます。ベタメタゾンは喘息の発作時に一時的に用いられ、テオフィリンは喘息をコントロールするために常用されます。
顔が丸くなっている原因ですが、ステロイドを使用すると「ムーンフェイス」と呼ばれる副作用が出る場合があります。この副作用は用量依存性があり、用量が多くなればなるほどその頻度は高まりますが、減量すれば元に戻る副作用です。おおよそ、2~3週間程度で表れることが多いようです。
ステロイドは非常に効きのいい薬ですが、その反面多くの注意が必要な副作用があります。例えば、糖尿病や感染症にかかりやすくなるなどが挙げられます。重い副作用も多くあるにもかかわらず今でも広く使われている理由は、それ以上に有用な場合が多いからです。慎重に使用することでその効果を最大限生かし、副作用の発現を押さえる、こうして使っている状態というわけです。こんな薬を知らず知らずのうちに服用してしまっていた、これは本当に恐ろしいことです。
また、ステロイドだけでなくテオフィリンもかなり使用に注意が必要な薬です。通常の薬と比べると中毒を起こしやすいため、用量設定に注意が必要な薬です。したがって、適当な用量で使用すると気分不良や頭痛、けいれん等が発生する可能性があります。今回はそのような症状は出ていないようなので運がよかったのではないかと思います。
医薬品が混入している薬から得られる教訓
個人輸入の薬については日本の薬機法の対象外です。薬機法とは、医薬品等による健康被害を防ぎ、品質を保証し、それらから健康を守るための法律です。個人輸入の薬にはこれは適用されないため、その品質は保証されていません。したがって、期待する効果が得られないならまだマシな方で、医薬品成分が混入、用量が明らかに適切でない、などといった健康被害を発生する場合もあります。しかも、これらによって発生した健康被害は救済されません。通常の医薬品の適正使用であれば、「医薬品副作用被害救済制度」によって救済がありますが、個人輸入の薬にはそれは適用されません。
たまに自然由来のものなので安心みたいな広告を見かけますが、薬は何で出来ているかが重要ではなく、中に何が入っているのかが重要です。神経毒として有名なふぐ毒のテトロドトキシンですら自然由来です。
まとめ
漢方薬・民間薬は、「身近な原料から出来ている」ために、安全であるというようなイメージを持っている人がいます。実際、西洋薬に比べるとその作用はマイルドではありますが、必ずしも安全かといわれるとそんなことはありません。「比較的身近に存在する素材」と「それを薬にしたもの」を同じように認識することは危険です。薬にする過程で通常ではありえない濃度に濃縮されていたり、通常は取りえない形態になっていたりする場合があります。よく知らないものは「薬」と名前がついていても品質が保証されていない可能性もあるので、むやみに使用しないことが重要です、そこには認識できていない大きなリスクが潜んでいる可能性があります。
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