GLP-1ダイエットの話

解説

今回は巷で話題のGLP-1ダイエットについてあれこれ解説していきます。ここでは美容目的で行われる「GLP-1ダイエット」を取り上げます。

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肥満とは

体脂肪が過剰に蓄積した状態のことで、一般的にはBMI25以上です。BMIの計算方法は身長を体重の2乗で割ったら算出できるので、よかったら計算してみてください。

BMI計算方法
体重(kg)/身長(m)^2

肥満はビジュアル的な問題以外にも糖尿病や脂質異常症、高血圧症、心疾患等多くの疾患のリスクが上昇してしまいます。そのため、健康を維持するためには対策が必要です。今回はそれとは関係なく、外見を気にして使用する方がほとんどだと思います。

日本人のBMI30以上の肥満者は全体の4.5%です。そのうち、男性が5.4%で肥満者の割合は増加傾向にあり、女性は3.6%であまり変わりありません。ちなみに、米国の肥満率は38.2%です。世界的に見ると、日本はBMI30以上の肥満の割合が低い国です。

肥満は、食生活の乱れや運動不足などにより、摂取カロリーが消費カロリーを上回った状態が続いたことにより、余ったカロリーが脂肪として蓄積されることで発生しています。

ものすごい雑に言ってしまえば、摂取カロリーが消費カロリーを上回れば脂肪が消費されていきます。そのため、やせるためには「消費カロリーを増加させる」または「摂取カロリーを減少させる」ことが必要です。つまり、巷で言われているように基本的な生活習慣の改善が非常に重要です。

GLP-1ダイエットは何者?

GLP-1ダイエットとは、近年健康的に痩せられるとされるダイエット手法のことです。主に美容系のクリニックが行っているダイエット手法で、体内に存在する「GLP-1」というホルモンを利用したものです。主張されているメリットは以下の通りです。

GLP-1ダイエットは、日本の糖尿病治療での使用が認められている「GLP-1受容体作動薬」を使用します。薬でダイエットなど邪道に見えますが、実はGLP-1作動薬はFDAや韓国、EU等で肥満症の適応があります。値段はいくつか調べてみたところ、値段は2週間分で2万円が相場のようです。年間50万程度かかる計算になります。

GLP-1作動薬とは何か

GLP-1とは、インクレチンと呼ばれる「食事に伴い消化管から分泌されるインスリン分泌を促すホルモン」の一種です。食事をすることで血糖値が上昇するとGLP-1が作用し、インスリンの分泌を増幅することで血糖値を下げる作用を発揮します。通常、GLP-1は数分以内に分解を受けてしまうので、分泌されたもののうちの一部しか作用しないとされています。

しかし、GLP-1作動薬では分解されにくいものを使用するため、通常ではありえない生理的な濃度を超えた高濃度で作用することになります。これによって、生体内では見られない特有の作用を発揮させることが出来ます。

通常GLP-1作動薬は糖尿病の治療薬として用いられますが、インクレチンだけではインスリンは分泌されないため、血糖値依存的にインスリンを効かせることが出来ます。そのため、必要以上に血糖値が下がりすぎる副作用である「低血糖」は生じにくい薬です。

GLP-1作動薬の効能・効果

GLP-1作動薬は摂食中枢を抑制、胃の排泄運動を抑制することで食欲低下・体重減少作用を発揮します。

日本でのGLP-1受容体作動薬の適応は「2型糖尿病」と2023年の1月に承認された「肥満症」です。今回はこの肥満症の適応についてみていきたいと思います。

2023年1月27日、GLP-1作動薬である「ウゴービ皮下注」が、「肥満症」に対して適応が承認されました。その適応がこちらです。

これを見て頂ければわかるとおり、極端な肥満でない限り、瘦身目的の使用は意図されていません。あくまでも健康被害が既に出ているため、体重を落とす目的での使用に限られています。日本人は軽度の肥満でも健康障害に繋がりやすいと考えられるため、軽度の肥満での使用が承認されています。

よって「ちょっとお腹周りが気になる」程度では保険適応にはなりません。当たり前ですが、美容目的で使用する層は対象にならないでしょう。そのため、現在美容クリニックで行われているGLP-1ダイエットが保険適応になる例はほぼないと思います。

つまり、GLP-1ダイエットの場合は適応外使用となるため自由診療扱いです。

GLP-1作動薬の海外での肥満症適応

確かに、GLP-1作動薬は海外で肥満の適応を持っています。ただし、これはかなり高度な肥満に対してです。海外の臨床試験ではBMI35、たまに30以上が対象にされているレベルです。日本ならBMI30以上は上位5%程度で偏差値66くらい、BMI35以上なら0.5%とされていて、偏差値76レベルです。肥満症の適応もこの程度の肥満を対象にしたものです。

例として、FDAで承認されているSaxenda(サクセンダ)の適応は、
「BMI30以上で食事療法と運動療法を行っている方」
で、BMI30未満には適応がありません。当然、日本人でこのレベルの肥満はかなり少ないです。(BMI30の時点で上位5%)

そのため、海外でも「ちょっとお腹周りが気になって…」なんてレベルの肥満での使用は想定されていません。

GLP-1作動薬の効果はどの程度?

それでは、GLP-1ダイエットに取り組むような美容目的での使用をした場合のデータはあるのかを調べてみました。その結果、残念ながら、BMI25以上の肥満を対象とするデータは見つけられませんでした。情報がほぼなかったため、以下私の考察になります。

臨床試験ではBMI30~35の人たちを対象にするので大きく改善した結果が出ますが、通常~BMI25程度の肥満でそれと同じような結果が出るのはかなり考えにくいです。このような高度の肥満の方と比べると、BMI25程度ではそこまで脂肪の割合が高くないためです。これは予想ですが、1年続けたとしても5%も体重は減らないと思われます。また、肥満症の治療の場合、主役は薬ではなく食事と運動療法です。それを徹底した上に薬を使用することで臨床試験で得られたような結果が出るわけです。そのため、何も制限することなくGLP-1作動薬を使用したとして、それでどれだけ効果が得られるのかは疑問が残ります。(悪心嘔吐下痢などがそれなりに発生するので、食欲不振の結果やせる可能性はあるかもしれませんが)
また、比較的新しい薬であるために見えていないリスクもそれなりに存在すると考えられます。特にダイエット目的で使用するのであれば長期間の使用となるでしょう。それによって体内にどのような変化が生じるのかというデータは今のところ十分集まっていません。そのようなリスクも存在します。

以上より、基本的な食事・運動療法を行うことでも十分効果が得られ、安全性も高いのであえて使用する理由は少ないと思います。

GLP-1ダイエットと医薬品副作用被害救済制度

まずは、医薬品副作用被害救済制度について軽く解説します。
医薬品は臨床試験や市販直後調査によって安全性を確認していますが、それでも副作用の発現を防げない場合が存在します。リスクをすべて明らかにすることは不可能のためです。医薬品を適正に使用したにもかかわらず副作用が発現し、入院治療が必要になるほど重篤な健康被害が発生したときに医療費や年金などの給付を行う公的制度を「医薬品副作用被害救済制度」です。

それでは、この制度がGLP-1ダイエットには適応されるのか?ですが、GLP-1ダイエットの場合は適応外となります。医薬品副作用被害救済制度の指定する「適正な使用」に該当しないからです。国内で使用されていない医薬品の場合、輸入されたものとなりますが、これは医師が個人輸入したものです。個人輸入した美容医薬品は医師の賠償責任保険の対象外となるため、もしも何か起った場合、十分な補償が出来ない可能性があります。

まとめ

確かに、海外では高度な肥満に対して適応を持っていますが、それはあくまでも「高度な」肥満、明らかに病的なレベルに対してです。日本でも承認こそされましたが、これも美容目的の使用が認められたのではなく、健康を保持する目的での使用に限られます。よって、美容目的のGLP-1ダイエットが肯定されたというわけではありません。

多少の肥満を対象にしたGLP-1作動薬の体重減少効果を報告したものは見つけられなかったため、効果のほどははっきりわかりませんでした。しかし、他の臨床試験の結果から推定するに、ちょっと体重が気になるという程度の方が使用したところで高度な肥満で見られたような痩身効果が出るとは思えません。そして、もしも何か有害事象が発生した場合、その補償は十分に受けられない可能性があります。また、費用もそれなりに高いです。

したがって、値段とその効果を踏まえると、「美容目的のGLP-1ダイエットはリスクに対する補償が十分でなく、効果もあまり期待できない、その割にお高い」という結論になりました。よって、今回の結論としては「お勧めしない」となりました。

今回は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

コメント

  1. ダンダ団 より:

    ワックスエステルの解説をお願いいたしますm(_ _)m

    • けむ より:

      リクエストありがとうございます。ざっと見た感じ、ワックスエステルは美肌効果があるとか、下痢の原因になるなどいろいろあるみたいですね。
      いろいろ言われていますが、中身はただの飽和脂肪酸みたいなので、あまり特別な作用を持ってはいなさそうです。保湿効果目的で使用するのであればワセリンでいいように思いました。食べてもろくに吸収されないせいで下痢になってしまうため、それが多く含まれる魚はよく焼いて油を落としてから食べてください。

  2. ダンダ団 より:

    お返事ありがとうございます。
    https://zazamushi.net/whitetuna/

    こちらのサイトによると煮ようが焼こうがダメ。食べたら何故か機械油のような匂いの赤い油が垂れ流しになるとか、、
    みんな大好きLD50があるようなものではないかもしれませんが、気が向いたらで構いませんので深堀した動画が見てみたいです‥‥!(割と初期の頃から動画拝見してます。これからも頑張って下さい!)

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