ロシアの秘密兵器「ノビチョク」

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今回は「ノビチョク」について解説していきます。
他の毒物に比べて圧倒的に情報が少ないので、今回はエピソードが中心になります。

動画版はこちら↓

ノビチョクとは?

ノビチョクは1970~80年代にかけてソ連が秘密裏に作った神経剤グループのことで、ロシア語で「新参者」を意味しています。ソ連の「フォリアント計画」で開発されたと言われています。

秘密裏に開発されていましたが、1992年、週間モスコフスキー・ノーボスチにてレブ・フェドロフとヴィル・ミルザヤノフが強力な化学兵器を開発したという情報を漏洩したことで明らかになりました。これによってミルザヤノフは国家機密の漏洩で逮捕具体的な情報を明かしていなかったため、その後釈放となっています。その後彼はアメリカに亡命しているようです。

これはロシアが化学兵器禁止条約に署名する直前のタイミングだったため、これによって旧ソ連で行われていた化学兵器開発が続けられていたということが明らかになりました。この頃、旧ソ連の化学兵器生産施設を一般産業用に転換するために西側諸国は財政支援を行っていました。そのため、アメリカ国防総省は早い段階でノビチョク関連の動きを把握していたと考えられます。

以下の情報はミルザヤノフが明かした情報に基づいたものです。

液体または固体と言われている。

これらのうちいくつかは毒性の低い2種類の化学物質の状態で保管され、混ぜ合わせることで殺傷能力を高める「バイナリー兵器」と考えられている。ロシア軍ではそれらのうち1種類が化学兵器として使用が許可されているらしい。

ノビチョクには数百の派生化合物が存在しているが、毒性が最も強いのはノビチョク5及び7が最強であるとされています。ただし、その構造は明かされていません。ノビチョクの1つである「A230」はVXの5~8倍の殺傷能力があると言われています。

ノビチョクが関与したとされる事例

セルゲイ・スクリパリとユリア・スクリパリ中毒事件

2018年3月4日元ロシア軍将校でイギリス諜報機関の二重スパイであったセルゲイ・スクリパリ氏とその娘であるユリア・スクリパリ氏がイギリスのソールズベリー市で毒を盛られた事件です。これを受けて当時の首相テリーザ・メイはノビチョクが使用されたと発表されました。その後、二人は治療の甲斐あり生存することが出来ました。

その後、6月30日、イギリスのエイムズベリー市でノビチョクが原因と思われる中毒事件が発生しました。

男性が未開封の香水の瓶を拾い、恋人にそれをプレゼントしました。彼女はそのブランドを知っていたため手首に吹きかけて使用しました。男性もその香水に触れたが、臭いがしなかったため不審に思い、香水を洗い落としました。その後、15分程度で女性の様子が急変し、病院へ搬送されました。そして、男性も意識を失いました。その後、男性は一命をとりとめたが、女性は死亡してしまいました。ノビチョクを廃棄するために香水の瓶に入れたため、それを拾って使用した男女が曝露されてしまったという事件と考えられています。
アレクセイ・ナヴァルニー中毒事件

2020年8月20日ロシアの反体制派のアレクセイ・ナヴァルニーの突如体調が急変しました。ロシアのオムスクの病院に入院したが、シネマ フォーピース ファンデーションという組織がドイツのシャリテ病院での治療を受けられるように手配し、この後、一命をとりとめました。そして、その後の調査により、ナヴァルニーはノビチョクに類する神経剤に曝されたと発表されました。当然ロシアの関与が疑われたが、ロシア当局はこの事件への関与を否定しています。

ノビチョクの毒性

LD50は残念ながら物質が特定されていないため、測定不可です。
サリンやVXよりも小さい数値であると考えられていて、ヒトでの半数致死量は1mg以下であると推定されています。

LD50についてはこちらを参考にしてください。

中毒症状

少量・中等量曝露では、局所的な発汗、嘔吐、虚脱感

大量曝露では意識消失、けいれん、無呼吸、弛緩性麻痺

などが発生すると言われています。

作用機序解説

作用機序
アセチルコリンエステラーゼを不可逆的に阻害する

ノビチョクは神経系に作用する毒物です。神経伝達に必須の物質である「アセチルコリン」を分解する「アセチルコリンエステラーゼ」を不可逆的に阻害するという作用を持っています。

神経伝達については別記事で解説があるので、そちらを参考にしてください。

アセチルコリンエステラーゼを阻害するとどうなる?

イメージとしては全身に存在する組織の働きを破壊します。

筋肉に対する作用

筋肉の収縮にはアセチルコリンが関わっています。アセチルコリン受容体にアセチルコリンが作用すると筋肉が収縮します。そして、アセチルコリンエステラーゼはアセチルコリンを分解することで筋肉の収縮が必要以上に続かないように調整しています。

ノビチョクによってアセチルコリンエステラーゼが阻害されると、アセチルコリンを除去することが出来なくなるため、アセチルコリンが過剰になります。つまり、筋肉に収縮の指令が出続けます。そのため、筋肉は指示通り収縮し続けることになります。その後、短時間で筋肉は疲弊し、収縮が停止します。そして、これより先は、刺激を受けても反応することが出来ず、麻痺状態となってしまいます。これが呼吸筋で起こると、呼吸麻痺状態になり死亡する可能性があります。

分泌腺に対する作用
アセチルコリンが過剰になることで、大量の発汗や鼻汁流涙等が発生します。気道の分泌物が増加するため、それによって呼吸が阻害される場合もある。

中枢神経系に対する作用
薬理作用が相当複雑なので、詳細な影響については不明です。ロシアの科学者によると、不可逆的な神経変性を引き起こすため、被害者に永久的な後遺症を残す可能性があると言われています。

今回は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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