イベルメクチンと新型コロナウイルス

解説

今回はいつの間にか聞かなくなった「イベルメクチン」について解説します。

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イベルメクチンとは?

イベルメクチンは一般名で、商品名は「ストロメクトール」といいます。
通常は寄生虫に対する「駆虫薬」として使用されています。静岡県のゴルフ場近くの土地から採取された放線菌が生産している物質を元に開発されました。イベルメクチンによって寄生虫によって引き起こされる感染症の治療法の発見の功績で、2015年に大村智先生はノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

当初は動物用の医薬品でしたが、1987年にフランスでヒトに対しての使用が承認されました。それから、特に寄生虫が猛威を振るっているアフリカや中南米の熱帯地域でとてつもない活躍を見せています。最悪の場合失明に至る「オンコセルカ症」の感染者数が、1987年には2090万人と推定されていたのが、イベルメクチンを年一回服用することで、アフリカの感染諸国29か国のほとんどで2025年を目処にオンコセルカ症を撲滅できると予測されているほどに激減しました。ここからイベルメクチンがどれほど効果をあげているかが分かります。2019年時点で、年間4億人ほどがイベルメクチンを服用していると言われています。

日本では2002年に腸管糞線虫症に対して、2006年には疥癬への効能効果が承認されています。イベルメクチンは日本の誇る非常に優秀な寄生虫に対する薬です。

なぜコロナの治療薬として期待されたのか?

新型コロナウイルスが流行したての当時、人類は有効な抵抗手段を持たなかったため、既存の薬剤が新型コロナウイルスに有効かどうか手当たり次第に調査されました。イベルメクチンは2012年に、in vitroでの抗ウイルス効果が報告されていたため、抗ウイルス活性を持つかもしれないということで注目されていました。しかし、その時のイベルメクチンの濃度は通常使用時の濃度の数十倍であり、この濃度のイベルメクチンがどのような影響を及ぼすかは未知数です。したがって、この濃度で使用するとどうなるのかという情報収集から行わねばならず、これには相当な時間がかかります。

イベルメクチンは通常の使用量であれば世界中で数十億回の使用実績のある薬です。そのため、通常用量に関しては安全性は確認されています。通常使用量でも新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果がある可能性はもちろんあるので、それを確かめるべく様々な臨床試験が行われました。

しかし、世界中で行われたイベルメクチンの臨床試験は多くが有意差を認めませんでした。つまり、イベルメクチンは新型コロナウイルスに対して有効性を証明できなかったのです。そのため、一般的には「イベルメクチンが新型コロナウイルスに対して有効である可能性は非常に低い」と考えられています。

イベルメクチンがなぜ期待されたのか?

2019年12月に中国の武漢で新型コロナウイルスが発見され、それから現在(2022年12月)に至るまで世界中で大流行しています。それで、翌年3月11日に世界保健機関(WHO)がパンデミックの状況にあると発表しました。未知のウイルスに対抗するため、様々な治療薬が検討されました。イベルメクチンも有効かもしれないと期待されたものの一つです。

実は、イベルメクチンの抗ウイルス作用は2012年から報告されていました。in vitroで、インフルエンザやデング熱を引き起こすデングウイルスの複製を阻害するということが示されています。in vitroというのは、試験管内でというくらいに思ってくれたらいいです。

その情報をもとに、新型コロナウイルスへの有効性をオーストラリアの研究グループが実験を行いました。その結果、イベルメクチンはin vitroで有意に新型コロナウイルスの増殖を抑えるという結果が得られています。しかし、「有効」ではあったものの、臨床では決して起こりえないであろう高濃度での「有効」でした。当然、その濃度を実現するのに必要な服用量は、臨床使用量を大きく上回ることになります。イベルメクチンには確かに豊富な使用実績がありますが、現在駆虫薬として使用されている用量を大きく上回る用量での安全性、有効性は全く確認されていません。この実験と同じ濃度を体内で再現しようとすると、FDAの承認用量の数十倍程度が必要と推定されます。これは投与することは不可能ではありませんが、それによって何が起こるのかは全く予想できません。

イベルメクチンの臨床試験

ここでは、私が臨床論文を読んでそれをどう解釈したか?ではなく、数々の臨床論文が出そろった現在、それらがどのように解釈されたのかを紹介します。論文を自分で読んで解釈しないのか?と呆れる方がいるかもしれませんが、臨床論文の解釈は私でどうにかなるレベルではありませんし、ここでは私の解釈ではなく客観的視点でどういう風に解釈されているのかをお話しします。

新型コロナウイルスの流行で、それに有効な薬が求められたため、数多くの臨床試験が行われました。イベルメクチンについても数多くの試験がなされたが、それらは有効性を示すことが出来ませんでした。一部有効であると判定した研究もあるにはありますが、有効だとされた有力なランダム化比較試験(RCT)は科学的に欠陥(不正)が明らかになり相次いで撤回となりました。日本でも興和と北里大学が臨床試験を行ったが、どちらも有効という結果は出ていません。

https://www.kitasato-u.ac.jp/khp/topics/2022/20220930.html
https://www.kowa.co.jp/news/pdfjs/web/viewer.html?file=https://www.kowa.co.jp/news/2022/press220926.pdf

これらの結果を踏まえ、専門家たちが総合的に判断した結果、イベルメクチンは新型コロナウイルスに有効である可能性は非常に低いという結論が出たわけです。そのため、現在イベルメクチンは新型コロナウイルスの治療と予防には用いられていません。

今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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