今回はカフェインの毒性について解説していきたいと思います。
動画版はこちら↓
カフェインとは?
カフェインは植物に含まれる「アルカロイド」の一つで、1819年にハンブルクの化学者フリードリープ・フェルディナント・ルンゲによって単離された物質です。
その名前はコーヒーを意味するドイツ語である「Coffein」から単離されたため、それに由来します。ちなみに、植物が昆虫などに食べられないようにするために持っている毒だと考えられています。
皆さんご存じの通り、コーヒーや緑茶など日常的に摂取する飲料や食物に含まれている物質です。眠気覚ましや徹夜のお供などお世話になったことのある方も多いのではないでしょうか?通常の摂取量では、覚醒作用、知覚・運動機能が高くなるような作用を発揮する有用な物質ですが、必要以上に摂取すると中毒症状を引き起こす可能性もある物質です。
このように食品や飲料に広く含まれているカフェインですが、近頃、眠気や倦怠感の解消などの理由から、エナジードリンクや市販薬を大量に摂取したことによるカフェインの過量摂取が問題になっています。日本中毒情報センターには毎年30件程度過量服用の相談が寄せられているようですが、近年相談件数が増加傾向にあるとのことです。
カフェイン摂取の歴史
人類のカフェイン摂取の歴史は茶とコーヒーを飲むことから始まります。
今回はカフェインが含まれている飲料の代表である「茶」と「コーヒー」に着目してカフェイン摂取の歴史について紹介します。
まずはお茶から
人類がカフェインを「それ」として認識したのは最近ですが、カフェインの作用自体はかなり昔から知られていたと言われています。古代中国の伝説上の皇帝である「神農」が記したとされる書物には、茶の持つ不思議な作用を発見したと記述があります。
「痰や胸の炎症による熱を放散する。渇きを癒し、眠気を覚ます。心を愉快にし、元気を与えてくれる」
神農は伝説上の人物とされているため、正確な時期については不明ですが、かなり古い時代からその薬理作用については何となく認識されていたと思われます。
また、日本で茶を広めたと言われる禅僧の栄西は、茶を
「養生の仙薬なり。延命の妙術なり」 「心臓や肝臓などの五臓によい」「病気にかからない」
と著書に記しています。我妻鏡には1214年、鎌倉幕府の将軍であった源実朝が二日酔いで苦しんでいるところに栄西が茶を献上し、実朝の二日酔いが回復したという話が残されています。
次に、コーヒーについて
コーヒーが現在のような形になったのは13世紀ごろとされており、エチオピアで始まった「コーヒー豆を炒って粉にして飲む習慣」が世界中に広まった考えられているようです。
ヨーロッパには17世紀ごろにコーヒーが広まったとされていますが、最初は得体のしれない飲み物に不安の声が多かったようです。コーヒーは「健康に良くない」、「あの香りは悪魔の香り」などと認識されていたらしいです。
最初は上流階級の飲み物とされていましたが、次第に日常生活に浸透し、現在は人気の飲み物となっています。それぞれの国で定着し、その国独自の文化と融合していきました。
このように、世界中でカフェインを含む飲料は愛飲されていて、人類はその薬理作用を上手く利用しながら発展してきました。
カフェインの中毒症状
こちらはカフェイン中毒の症状を一覧にしたものです。これを見ればわかる通り、カフェインの中毒症状は非常に広く現れます。これはカフェインの作用が広範囲に及ぶということに由来しますが、これらの詳しい機序については後述することとします。
カフェイン中毒の症状は、
軽症では、食欲不振や嘔気、頻脈などが見られ、
重症例では痙攣発作、不整脈などが発生することがあります。
このうち、致死的になり得るのは痙攣と不整脈です。
カフェインのLD50
そもそもLD50についてですが、非常に簡単に説明すると、
「とある物質を摂取した際に、その半数が死亡してしまう摂取量」のことです。
詳しい解説は別記事にて行っていますので、そちらを参考にしてください。
詳しくは別記事で解説をしているのでそちらを参照してください。
それではカフェインのLD50ですが、
ラット(経口)192 mg/kg
マウス(経口)127 mg/kg
となります。
これだけではピンとこないかと思ったので、マウスの経口LD50を他の毒物と比較してみました。
比較対象は水、食塩、フグ毒であるテトロドトキシン、破傷風菌が産生する毒素であるテタノスパスミンです。テトロドトキシンとテタノスパスミンは神経毒のため、LD50は非常に小さいです。これらと比較するとカフェインのLD50はそれなりに大きいということがわかります。
実際には、成人の中毒量は1g程度とされています。しかし、これについては個人差が非常に大きいためそれより少ない量でも中毒を発生する可能性があります。私もカフェインの感受性が高い方なので、コーヒー二杯で頭痛するようになります。
これは飲料中に含まれるカフェイン量を示したものです。これを見る限り、カフェイン含有量はかなり幅があることが分かります。特にエナジードリンクには高濃度に含まれている場合があるので注意が必要です。味も飲みやすいものが多いため、過量にならないように気を付ける必要があります。
海外ではエナジードリンクを大量に飲み死亡した事例もあり、日本でもカフェイン錠剤とエナジードリンクの併用で死亡例もあります。飲料以外にも市販薬や食品に含まれている場合もあるため注意が必要になります。https://www.sankei.com/article/20151222-MSKUVOJNCVMH5J74CQL6N6B5AY/
カフェイン作用機序
カフェインは医薬品として日本薬局方にも記載されています。
添付文書上に記載のある作用機序は次の通りです。
中枢作用としては、大脳皮質を中心とした興奮作用、末梢作用としては、心筋収縮力増強作用、血管拡張作用、平滑筋弛緩作用、利尿作用などを現す。細胞レベルでの作用機序としては、筋小胞体からのCa 2+ 遊離作用、ホスホジエステラーゼ阻害作用、アデノシンA1受容体遮断作用などを示す。
カフェイン水和物「ヨシダ」より引用
さすがにこれでは意味不明なので、これをものすごく簡単にざっくりまとめると、
「交感神経系の作用を増強する働きを持つ」という風に言うことが出来ます。
カフェインはあまりにも作用範囲が広いため、それぞれに対して作用機序の解説を行うのは無謀なので、今回は「交感神経系が増強されるとどうなるのか」に焦点を当てて解説します。
カフェイン中毒と不整脈
生物は生命維持を行うために「生体内を特定の状態に維持する」必要があります。これをホメオスタシス、または生体の恒常性と呼びます。この維持を行っているのが「自律神経系」です。
また、自律神経系は2つに分類することが出来ます。それが「交感神経系」と「副交感神経系」です。
自律神経系の特徴としては、
「自律的に動く」
「一つの組織を交感神経と副交感神経の二つが支配している」
「交感神経と副交感神経は拮抗的に作用する」
という点が挙げられます。
心臓を例にとると、交感神経が優位になると心拍が増加し、副交感神経が優位になると心拍が減少するという現象が起こります。
体内では、これら交感神経と副交感神経が上手くバランスを取ることで生存するのに最適な状態を保っています。
そして、多量のカフェインは交感神経の作用を増強することで、そのバランスを崩してしまいます。
カフェインはこちらに記載のある作用を増強します。
今回は心臓に注目してみていきます。
交感神経が優位になると、「心拍数の増加、収縮力の増大」が起こるということが分かります。通常の心臓では心拍数や収縮力を必要に応じて調整しているわけですが、カフェインを過量に摂取するとこれらが過剰に強化されることになります。つまり、ものすごく心拍数が増えるというようなことが起こってしまいます。心臓は心拍数を無限に増やせるというわけではなく、心拍数を増やす指令が出すぎると心臓はそれについていけず、正常に心拍を行えなくなります。これによって不整脈が発生してしまうわけです。重篤な不整脈の発生により循環がうまくいかなくなると、細胞の生命活動を維持することが出来ないため致死的な結果になる場合があります。
今回は以上です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
コメント