グレープフルーツジュースは飲んではいけないのか?2

解説

引き続き、「グレープフルーツジュースは飲んではいけないのか」について解説していきます。
動画版はこちら↓

グレープフルーツジュースは本当に飲んではいけないのか?

それでは、本当にグレープフルーツジュースは危険なので飲んではいけないのでしょうか?今回は、

  • グレープフルーツジュースが相互作用する根拠
  • CYP3A4の個人差
  • 影響を受けやすい薬
  • グレープフルーツジュースのフラノクマリン類含有量

以上4つについて検討し、
グレープフルーツジュースは飲んではいけないのか?について考えていきたいと思います。 

グレープフルーツジュースが相互作用する根拠

グレープフルーツジュースはいろいろな医薬品に相互作用をするとされていますが、実際の添付文書上の記載を見てみましょう。

免疫抑制薬であり、使用に相当な注意を必要とするうえにCYP3A4への依存度が高い薬である「シクロスポリン」の禁忌の項目がこちらです。

シクロスポリンカプセル「トーワ」添付文書より引用

これを見る限り、禁忌への指定はされていないようです。
添付文書では、「併用注意」の欄に記載があります。
また、シクロスポリンよりもさらにCYP3A4への依存度が高い薬である「シンバスタチン」の禁忌欄がこちらです。

シンバスタチン錠「杏林」添付文書より引用

シンバスタチンでも禁忌への指定はないということが分かります。
シンバスタチンについてもシクロスポリン同様に「併用注意」欄に記載があります。

これから、併用が禁止されているわけではないということが分かります。

実際にグレープフルーツジュースが併用注意に指定されている理由として、「血中薬物濃度に変化があった」ということが多いです。併用をすることで何か副作用が出たという理由で指定されているわけではありません。ただ、血中濃度に変化があった報告があるということは事実なので、影響がないということではありません。

CYP3A4の個人差

CYP3A4は体内に存在する異物代謝酵素です。この酵素は様々な遺伝子多型が報告されており、この代謝能には最大で「数十倍」の差があると言われています。これは医薬品に対する耐性や感受性に影響してきます。これを考慮すると、小腸で代謝を行う酵素の代謝能は個人差が非常に大きいということが分かります。これを考慮すると、もともと代謝能が低い人は阻害されたとしても、代謝に寄与する割合が低いため影響は小さいかもしれません。

影響を受けやすい薬

グレープフルーツジュースの影響を受けやすい薬と受けにくい薬が存在します。

  • 治療域と中毒域が近い薬
  • 代謝を受けやすい薬

ざっくりこれらの薬が影響を受けやすいと考えられます。

まずは、「治療域と中毒域が近い薬」について解説していきます。
このような薬は注意深く血中濃度をコントロールして使う必要がある薬で、血中濃度が多少上がっただけでも中毒域に突入してしまう可能性があるものです。そのため、出来るだけ血中濃度に影響を与えたくない薬です。有害事象が発現するリスクが高いため、影響を受けやすい薬であると言えます。

次に、代謝を受けやすい薬についてです。
こちらはイメージしにくいと思われるので、イメージ図を用意しました。

薬が5つ体内に入ってきたと仮定して説明します。
まず、左側から見て下さい。
左側は特に何もしていない場合です。この時、小腸に存在するCYP3A4によって4つ代謝されてしまうとします。この時吸収を受けるのは全体の2割です。

右側はグレープフルーツジュースを飲んだ結果、小腸のCYP3A4がすべて阻害されてしまった状態で薬が5つ入ってきた時であるとします。
この時、代謝酵素が阻害されているためすべて吸収されたとすると、吸収されたのは5つになります。これは何もしていない時に比べて吸収量は5倍になります。つまり、5倍の量を服用した状態のようなものです。※非常に簡略化しているのでイメージです。

以上のような性質を持つ薬についてはグレープフルーツジュースの影響を大きく受ける可能性があると考えられます。

グレープフルーツジュースのフラノクマリン類含有量

実は、グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類の量は相当に違います。グレープフルーツにはピンク、白色、ルビーなど様々な色があります。このうち、フラノクマリン類は白色の種に多く含まれていると言われています。そして、それをジュースにしたときに含まれるフラノクマリン類もそれに準じます。また、収穫時期によってもフラノクマリン類の含有量は変化すると言われています。
しかし、どの色にしても薬の作用を増強することに変わりはないので、注意が必要であることに変わりありません。

グレープフルーツジュースは飲んでもいいのか?

ここまでいろいろ解説してきましたが、私個人の意見は、「やはり推奨はしない」という結論になりました。一概に禁止すべき、問題ないとするには個人差が大きすぎるため、一律に設定するというよりは、個々の事例で判断されるべきことのように思います。特にグレープフルーツジュースの影響を大きく受けるような薬を服用している方については注意が必要なものです。どうしても飲みたい、これがないと我慢ならないという方は一度専門家へ相談することをお勧めします。

また、グレープフルーツジュースによって阻害されたCYP3A4は回復に数日を要するということが知られています。そのため、「同時に服用しなければ大丈夫」という性質のものではなく、相互作用を起こす薬を服用している間はグレープフルーツジュースを飲むことを避けることが望ましいとされています。

グレープフルーツ以外の柑橘類について

実はグレープフルーツ以外にもフラノクマリン類が含まれている柑橘類はいくらかあります。

これらに関しても同様の機序で薬の作用が増強されるために注意が必要です。そして、見た目からは判断がつかないため、それぞれ確認する必要があります。「皮が分厚いものに注意」といわれることもありますが、これは完全ではありませんのでご注意ください。

https://oici.jp/hospital/patient/fdin/medicine_06/より引用

グレープフルーツ「ジュース」でなければ問題ないのか?

特に注意が必要なのがジュースというだけで、グレープフルーツ自体にも注意が必要です。実を食べる場合とジュースを飲む場合では、ジュースの方が圧倒的にグレープフルーツの摂取量が多くなります。機序的に、フラノクマリン類を多く摂取すればするほどその影響は大きくなると考えられるため、特にジュースが取り上げられているわけです。

また、皮に多くフラノクマリン類が含まれていることが分かっています。多量に摂取するということはないとは思いますが、マーマレードなど果皮が含まれているものは避けて頂いた方が無難です。

何とかしてグレープフルーツジュースを利用したい

「小腸におけるCYP3A4による代謝を抑制し、薬を少量で効果的に効かせる」ということを検討した研究があります。実際に血中濃度が上昇したようではありますが、今のところ一般化できるほどの効果は挙げられていないようです。やはり個人差が非常に大きいというところがネックになっているのかもしれません。
DOI: 10.1016/s0140-6736(95)90700-9
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7715295/

それでは今回はここまでとします。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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