市販薬をODするとどうなる?2/3

解説

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ODされる市販薬

乱用されるのは手に入りやすい鎮咳薬・感冒薬です。ここでは市販薬の乱用において最も有名であろう「エスエスブロン(以下ブロン錠)」を取り上げて解説を行います。

ブロン錠は咳を鎮め、痰を排出しやすくなるという作用を謳った市販薬です。
以下、ブロン錠の成分です。

https://www.ssp.co.jp/uploads/product/all/brt/package_insert.pdf?2より引用

それぞれの成分について簡単に解説します。

ジヒドロコデインリン酸塩は中枢性の鎮咳作用を持つ物質です。

メチルエフェドリンは交感神経を刺激することで気管支を拡張し呼吸症状を緩和します。

クロルフェニラミンは抗ヒスタミン薬で、アレルギー反応によるせきや呼吸症状を抑えます。

カフェインはホスホジエステラーゼと呼ばれる酵素を阻害することで気管支平滑筋を拡張させ、症状を改善します。

これら複数の成分の相互作用により咳を抑えたり、痰を出しやすくする薬となっています。

ブロン錠に含まれる物質のうち「メチルエフェドリン」「ジヒドロコデイン」中枢刺激作用依存性を持った成分です。これらは適量であれば咳を抑えたり、下痢症状を抑えたり有用な効果を持ちます。しかし、その適量をはるかに超えた量を服用することによって、適正使用時には問題になりにくかった副作用が現れてきます。

ブロン錠をODするとどうなるのか

ここでは先ほど紹介した「エスエスブロン錠」をODしたと仮定して解説を行います。
一瓶60錠入りと84錠入りがあるようですが、キリがいいので60錠全部服用したと仮定することとします。乱用者は数瓶服用する場合もあるようですが、今回の解説ではないように大きな影響はないためこのまま解説します。

60錠すべて服用すると、5日分を1回で服用するという状態になります。
これを服用することでどのような影響が出るのかを考えていきます。

また、すべて同時に考えるにはあまりに複雑なので、一つ一つ作用を解説していくこととします。

ジヒドロコデインリン酸塩について

ジヒドロコデインリン酸塩の構造です。
こちらは咳止めや鎮静、鎮痛、下痢に対して使用される薬になります。

効能効果・用法用量は以下の通りです。

通常の用量では1回10mgの服用です。
ODでは150mgの服用になるため、通常の用量の15倍程度の服用量になります。

ちなみにLD50はマウスでの経口投与では500mg/kgや390mg/kgであるという実験データがあります。そのまま当てはめることは出来ませんが、おそらく150mgではヒトのLD50には遠く及ばないかと思われます。また、単体での話なのでブロン錠ではどうということは言えなさそうです。

ジヒドロコデインの作用機序

コデインと同じくモルヒネ系鎮痛薬に属するので、薬理作用は質的にはモルヒネに準ずる。鎮痛、鎮咳作用はコデインより強く、臨床的には主として鎮咳薬として用いられ、麻薬性中枢性鎮咳薬に分類される。

(第十七改正日本薬局方解説書 2016, C–2178 廣川書店)

(参考)モルヒネ塩酸塩水和物

オピオイド受容体のうち、主としてμ受容体に作用して、中枢神経及び消化器系に対する作用を現すが、δ及びκ受容体に対する親和性も有する。中枢神経系に対しては、鎮痛、麻酔、多幸感、鎮咳、呼吸抑制などの中枢抑制作用と、嘔吐、縮瞳、痙攣などの中枢興奮作用を示す。鎮痛薬としての特徴は、少量で意識の消失なしに痛みを抑制することである。
鎮痛作用の機序は次のように考えられている。
脳内には下行性の痛覚制御経路があり、モルヒネはその経路を賦活することにより、脊髄後角における痛覚情報の伝達を抑制すると考えられている。鎮咳作用は咳中枢の抑制に、呼吸抑制作用は呼吸中枢の抑制に由来する。末梢作用としては、胃・腸管運動の抑制、胃液、胆汁、膵液分泌の抑制を示し、肛門括約筋の緊張を高めるので、強い止瀉作用を示す。

(第十七改正日本薬局方解説書 2016, C–2178 廣川書店)

作用機序はモルヒネと類似した機序を持っています。作用する受容体が広範に存在するためにその作用も多様です。麻薬性の鎮咳作用を持ちますが、依存性はモルヒネなどより弱いため、規制がその分緩いため市販薬に入っているものもあります。

ジヒドロコデインをODするとどうなる?

先ほど紹介した通り、あまりにも作用の範囲が広すぎるため、作用機序から発生する症状を推定することが困難です。よって、ここでは症例報告にあった症状を紹介します。報告によると幻聴や妄想、被害妄想が生じることがあるようです。

他に危険な副作用としては呼吸抑制があります。
この副作用は用量依存的に発生するため、ODでは重篤になりやすく、
致死的になる場合もあるため非常に危険です。

メチルエフェドリンについて

メチルエフェドリンは漢方薬に用いられる「マオウ」に含まれるアルカロイドで、エフェドリンにメチル基が付与されたものです。

こちらが構造です。

以下、添付文書上に記載のある効能効果・用法用量になります。

通常の用量であれば最大でも1日50mgです。
ブロン錠を60錠服用すると250mgになるので、
ODでは通常の用量の5倍程度の量になります。

メチルエフェドリンの作用機序

以下、添付文書上に記載がされている作用機序です。

アドレナリンα、β受容体は全身に存在するため、メチルエフェドリンは全身に作用を及ぼします。

また、中枢神経に作用し鎮咳作用をもたらします。
メチルエフェドリンはアンフェタミン(覚醒剤指定)のような中枢神経刺激作用があります。通常の用法用量であれば問題になることは少ないですが、ODを行うとこれらの作用も増強されます。

メチルエフェドリンをODするとどうなる?

添付文書上では以下のように報告されていて、特に血中のK濃度が減少する低K血症が危険です。詳しくはこちらでは省きますが、不整脈の原因となります。

他の症状については以下のように記載があります。

これらのほか、症例報告に記載があった症状は、不眠、焦燥感、幻聴、幻視などが報告されています。

クロルフェニラミンについて

こちらはよく鼻炎で使われる薬になります。

以下効能・効果と用法・用量です。

通常の用量では最大でも2mgですが、
ODでは60錠で40mgの服用になるので、20倍の服用量になります。

クロルフェニラミンの作用機序

以下添付文書上に記載されている機序となります。

クロルフェニラミンをODするとどうなる?

以上は添付文書上に記載のある重大な副作用です。
これらのうち特に問題になると思われるのは痙攣であると思われます。こちらは機序的に用量依存的に発生しやすくなると考えられるため、ODによってより発生しやすくなると思われます。
また、他の症状についてはアレルギー的な側面が強いためODでどう、というものではありません。

他に考えられる副作用としては、抗コリン作用による眼圧上昇や排尿障害が出ることが予想されます。他には眠気や、中枢神経系の副作用等が考えられます。

カフェインについて

以下カフェインの構造です。

添付文書上の効能・効果と用法・用量については以下のようになります。

通常の用量であれば最大でも300mgであるため、
ブロン錠のODでは450mgの摂取となり、1.5倍量の服用になります。

通常健康な成人が摂取しても安全とみなされる摂取量は1回に3mg/kg体重までなので、450mgは150kgのヒトで安全量ぎりぎりということになります。60kgのヒトだと2.5倍量に当たります。

ただ、ヒトのカフェインへの耐性はかなり異なるので、これによって全員に副作用が出るというわけでもありません。

カフェインの作用機序

カフェインは中枢神経系から末梢まで広く作用するということが分かります。あまりに作用が多すぎるためここでは広く作用するということが分かっていただけたら十分です。

カフェインをODするとどうなる?

添付文書上に過量投与について記載があったため、こちらも触れておきます。

精神神経症状はかなり高用量でないと出ないと思われるので、
カフェイン単体で450mgの服用では主に消化器症状や循環器症状が現れると考えられます。

今回はここまでとします。次回はブロン錠をODするとどうなるのかについて解説していきます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

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