今回はアルコールと睡眠薬の併用について解説します。
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睡眠薬とアルコールの併用で起こること
基本的にはアルコールと睡眠薬の併用は勧められません。
アルコールと睡眠薬を併用すると、
ふらつき、物忘れ、おかしな行動をしてしまうなどの副作用が生じやすくなるからです。
と説明を受けたことのある方は多いでしょう。
そう説明されたとしても、恐らくそれなりの割合の人が、
なんだかんだ併用しているのではないかと思います。
そして、「案外大丈夫じゃない?」と考えている気がします。
今回はそれによってどのようなことが起こるのか?について解説しようと思います。
睡眠薬とは?
睡眠薬にはいくつか種類が存在しています。
この中でも今回は特にベンゾジアゼピン(BZ)系、非BZ系薬との相互作用について解説します。
他の種類のものについては今回は取り上げませんが、
機序的には他の睡眠薬でも同様のことが考えられます。
睡眠薬の作用機序
睡眠薬は神経の興奮を抑え、催眠作用をもたらします。
以下作用機序です。
GABAA受容体のBZ結合部位に結合し、 Cl-チャネルのCl-通過量を増加させ、神経の興奮を抑える。
まずはこちらについて解説していこうと思います。
GABA受容体とは?
神経細胞は複数の神経細胞から興奮性・抑制性の信号を受け取り、その刺激を合算し、一定の数値を超えると神経細胞が興奮し、他の神経細胞に信号を伝達するという仕組みになっています。
GABA受容体は他の神経細胞から発された抑制性の信号を受け取る受容体です。GABA受容体には大きく分けて2種類存在しており、GABAA受容体とGABAB受容体が存在しています。これらは発現している部位が異なっており、GABAA受容体は主に中枢神経系に、GABAB受容体は末梢神経系に主に存在しています。
GABAA受容体は十数種類のサブユニットが存在し、五量体を形成しています。サブユニットの組み合わせによってGABAの受容体への結合力が異なるということが明らかになっています。
また、GABA受容体にはさまざまな物質の結合部位が存在しています。
今回は簡単のためにGABA結合部位とBZ結合部位のみを示しました。
GABAがGABAA受容体のGABA結合部位に結合すると、受容体のCl–チャネルが開口し、細胞内にCl–が流入します。これによって膜電位が低下し、神経の興奮が抑えられます。
また、GABAA受容体にはGABA結合部位のほかに、ベンゾジアゼピン結合部位が存在しており、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬はここに結合して作用します。結合することでCl–の透過頻度が高くなり、膜電位が低下するため神経の興奮を抑えることが出来ます。
睡眠薬はこのように神経の興奮を抑える作用を利用して催眠作用を発揮するのです。
また、GABAA受容体に存在するベンゾジアゼピン結合部位には二種類存在しています。それがω1受容体と、ω2受容体です。ω1受容体は催眠・鎮静作用を、ω2受容体は筋弛緩作用や抗不安作用、抗けいれん作用をもたらします。
睡眠薬によってこれらの受容体への親和性が異なり、この違いが効果や副作用に影響してきます。
アルコールの作用
アルコールに含まれるエタノールは私たちの脳の機能に対して抑制的に作用することが知られていますが、その作用はどのようにして起こっているのでしょうか?
実はエタノールの作用機序は正確にはわかっていません。いくつかの研究によると、複数の受容体やイオンチャネルに作用するということが報告されています。その中でも、GABAA受容体、グリシン受容体、セロトニン5HT3受容体の作用を増強するとされています。
また、記憶の形成に関与するNMDA受容体の作用を阻害することで記憶の形成を阻害するということも知られています。飲酒をしたときの記憶があいまいになるのはこの受容体への作用が関与していると言われています。
いずれも脳内の神経細胞の興奮を抑制するという報告に働くものですが、抑制性のシナプスの興奮を抑制すれば興奮性の刺激が上昇するので単純に抑制として作用するというわけでもありません。そのためかなり複雑な作用を持っています。
アルコールと睡眠薬を併用するとどうなる?
併用すると当然両者の作用が同時に発現するという状態になります。
そもそも睡眠薬はこれ単体で良好な睡眠効果が得られるように用法用量が設定されています。
ここにアルコールの作用が加わるとどのようになるのか?について解説していきます。
これは縦軸に受容体に対する作用の強さを取った図です。
睡眠薬のみの場合、上の図のような作用が起こるとします。右上の表は先ほど出した受容体それぞれの作用を示しています。また、図の作用強度については適当です。あくまでもイメージ図くらいの感覚でご覧ください。
アルコールを併用した場合、以下のように変化します。
アルコールは先ほど紹介した通り、GABAA受容体へも作用します。作用の強さは量によって大きく異なりますが、説明しにくいので今回は適当に設定しました。また、受容体の選択性は特になさそうだったので、今回は同程度作用するということにしました。
睡眠薬は決まった用法用量で効果的に作用するように設計されていますが、それにアルコールの作用が追加されることで、その調整が崩れてしまいます。睡眠薬だけならω2受容体への作用はさほどでもなかったのですが、アルコールの作用によって筋弛緩作用が現れやすくなり、ふらつきが生じやすくなります。
また、アルコールはGABAA受容体以外の受容体へも作用します。睡眠薬も他の受容体への作用がないわけではありませんが、アルコールの作用が合わさることでまた別の症状が出る場合もあります。
その結果、単体であれば大きな問題になっていなかった「副作用」が強く出ることが予想されます。
また、アルコールは肝臓で行われる物質の代謝の代謝を抑制するということが知られています。これによって睡眠薬の代謝が抑制され、睡眠薬の作用が長く残ったり、睡眠薬の作用が増強される場合があります。
以上二つの理由があり、副作用の発現率が上がるため併用しないようにとされています。
また、アルコールの作用により入眠しやすくはなりますが、アルコールの作用により睡眠の質が低下するということが言われており、入眠は出来るかもしれませんが、それ以外のデメリットが多くあるので入眠目的の使用もお勧めできません。
それでは今回の解説は以上になります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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