どうも、kmです。
今回は「最強の薬剤耐性菌の作り方」についてお話ししていきたいと思います。
動画版はこちら↓
薬剤耐性菌とは?
簡単に説明すると、
抗菌薬(抗生物質)が効かない、または効きにくい菌のことです。
ちょっと長いので、以下耐性菌としてお話しします。
細菌感染症において抗菌薬は非常に強力な武器です。抗菌薬を使用することで原因となる細菌を死滅させ、その症状を改善することが出来ます。
しかし、抗菌薬に対して耐性を持っている菌は、通常は死ぬはずの抗菌薬がある環境でも生存または増殖が可能であり、抗菌薬で死滅させることが困難になっています。自然界にも存在はしていますが、数としては通常の菌よりかなり少ないとされています。
また、多剤耐性菌と呼ばれるものも存在しており、これは多種の抗菌薬に対して耐性を獲得した菌のことです。この場合は使用できる抗菌薬の種類はかなり限定されてしまいますが、すべての抗生剤に耐性があるわけではなく、別の抗生剤を使用することで治療を行うことが出来ます。
特に多剤耐性菌は腸内に常に存在する常在菌がなることが多い傾向にあります。常在菌はヒトと共生しているため免疫で除去されず、ヒトが服用する様々な種類の抗菌薬に曝されます。その結果、多剤耐性になってしまうということがあります。
なぜ耐性菌が問題になるのか
多くは健康なヒトに病気を引き起こしたりしないので、そこまで心配することはありません。たとえ外から入ってきたとしても、常在菌が既に定着しているので、増殖して定着するのは難しいでしょう。
耐性菌が問題になるのは多くの場合、抵抗力の落ちているまたは感染症に弱い人です。感染を起こしやすい要因を持っていて、免疫力が低下している、抗菌薬も投与されている、といった複数の要因が存在する場合に多剤耐性菌が問題になりやすい傾向にあります。
抗菌薬と耐性菌
もともと体内では大量の細菌が住み着いており、「細菌叢」を形成しています。この中に耐性菌もいるわけですが、耐性を獲得した菌は通常生存に必須ではない耐性を維持するということにエネルギーを消費しているため、細菌叢の中でも少数派にとどまっています。
耐性菌は抗菌薬が投与されたことによって発生した環境の変化によって生まれます。つまり、細菌が環境の変化に対して適応した結果というわけです。
抗菌薬が投与された場合、抗菌薬の作用によってそれに耐性のない菌は死滅します。それによって、多数派がいなくなり、腸内細菌叢のバランスが崩壊します。そのため、抗菌薬の投与によって生み出された環境は、他の菌が増殖に不利と働く中、耐性菌はその影響を受けていないため、他の菌より増殖を優位に行うことが出来るのです。
最強の耐性菌の作り方
それでは模式図を使って最強の耐性菌を作ってみたいと思います。
こちらの図は、腸内細菌叢を示しています。今回は簡単のために4種類の菌のみを示しています。
このうち、赤い菌のみ抗菌薬Aに耐性を持っている菌であるとします。
この状態で、抗菌薬Aを不適切に使用した場合を考えてみます。
適正な使用方法でないため、耐性を持っている菌は生存可能であるという環境が発生しています。
腸内細菌叢は、抗菌薬Aの投与によって以下のように変化したとします。
耐性を持っている菌が生き残り、赤の菌は全て生き残った状態です。
この状況が続くと、細菌が増殖し、次のように変化します。
耐性菌は抗菌薬Aが存在する環境でも増殖が妨げられないため、他の菌よりも多く存在しています。
そして、抗菌薬Aは効果が薄かったため、次は抗菌薬Bを投与することになりました。
抗菌薬Bも不適切に使用した場合、先ほどの状態が次のように変化したとします。
不適切な使用のため、全く耐性のない菌は死滅しますが、多少耐性を持っている菌については死なずに生き残るという状態になってしまっています。この時点でAとBへの耐性を持った菌が生まれました。
そして、Bを不適切に使用し続け、耐性菌にとって有利な環境が続いた結果を以下に示します。
先ほどと同様に、耐性菌は抗菌薬の影響は小さいので他の菌よりも優位に増殖することが出来ます。
この状態では抗菌薬Bも効果が薄いため、新たに抗菌薬Cを使用したとします。
そして、またしても不適切に使用したとします。不適切に使用した結果、腸内細菌叢は以下のように変化します。
不適切な使用によって、抗菌薬Cに耐性を持っている菌のみが残ってしまった状態です。
それが増殖することで次のようになります。
ここまでで、抗菌薬ABCを使用し、そのすべてを不適切に使用することで、ABCの抗菌薬に耐性を持つ菌が生まれたことになります。
このように、抗菌薬を使用し、殺しきれなかった菌はそれにある程度の耐性を持つため、
これを何度も繰り返せば、理論上はあらゆる抗菌薬に耐性を持つ最強の耐性菌を生み出すことが出来ます。
抗菌薬を適正に使う意義
抗菌薬が存在する環境では、通常の耐性のない細菌は生存できません。ただ、それに耐性を持っているものに関してはその限りではありません。あらゆる抗生剤に耐性を持ってしまうと除去が非常に困難になってしまいます。
そのため、耐性菌を生まれないようにうまく抗菌薬を使う
ということが重要になってきます。
抗生剤の中途半端な使用による「耐性菌に有利に働き、通常の細菌には不利に働く」という状況を作り出してしまうことは避けなければなりません。そのため、抗菌薬は適切な使用が最も大切であるわけです。
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