ニトログリセリンとは?
ニトログリセリンは、あのダイナマイトの爆薬として有名な物質でもあり、狭心症の薬として使用される物質でもあります。常温常圧で液体、甘味と苦味のある味がするようです。薬としては、狭心症発作が発生したときに服用し、症状を抑える目的で使用されています。
ニトログリセリンの歴史 1846年イタリアの科学者であるアスカニオ・ソブレロが初めて合成に成功しました。彼は出来上がった物質を味見したところ、こめかみがずきずきしたという記録を残しています。 ニトログリセリンは振動が加わるなど軽い衝撃でも簡単に爆発し、その上威力も凄まじいかったため、実用には危険すぎると考えていたようですが、後にアルフレッド・ノーベルが安定に取り扱う方法を発見し、それを活用し「ダイナマイト」に利用されました。
医薬品としてのニトログリセリン ダイナマイト生産工場に勤める作業員から、休暇明けの仕事ではひどい頭痛やめまいがするという証言や、不思議なことに家では狭心症の症状が出るのに、工場では起こらないといった声が上がっていたようです。 これを聞いた医師が「ニトログリセリンに何か原因があるかもしれない」と研究した結果、ニトログリセリンには「血管を拡張させる作用」があることが明らかになりました。
上記の声は、
健康な人に対しては、余計に血管を拡張させたために、めまいや頭痛といった症状が発生し、
狭心症の患者に対しては、ニトログリセリンが皮膚や粘膜から吸収されて、その血管拡張作用によって狭心症の症状が抑えられていたが、週末はニトログリセリンを摂取出来ないために、薬の効果が切れた
というカラクリがあったというわけです。
どのようにして血管を拡張させているのかは長い間不明でしたが、現在は機序が明らかになっています。
薬としてのニトログリセリン
ニトログリセリンには剤形が複数あり、注射剤と舌下錠があります。おそらく注射よりは舌下の方が身近であると思うので、今回は舌下錠に焦点を絞ってお話します。
用法用量 ニトログリセリンとして0.3~0.6mgを一回に舌下投与
数分で効果が現れなければ追加投与することが出来ます。錠数は医師から指示があるはずなので、その数を守って使用して下さい。
以下、使用上の注意です。ただ、実際の使用については個別の事情が考慮されて最適化されているので専門家の指示に従ってください。何か起こっても責任は取れません。
舌下投与について 基本的に舌の下において唾液などで錠剤を溶かして使用します。ちなみに、飲み込むと効果がなくなります。飲み込んでしまった場合は効かないので追加で服用してください。 口に中が乾いていて錠剤を溶かせない場合は、水で湿らせてから使用しても大丈夫です。実は、かみ砕いて舌の下に置くも可のようです。
舌下錠は爆発しない? 結論から言うと、爆発しません。 錠剤に含まれるニトログリセリンの量はわずか0.2mg程度です。実際にダイナマイトとして使用される量ははっきりしませんでしたが、火薬重量の5割とか7割とかそのくらいと記録を発見したので、それなりの量が必要のようです。ただ、記録が古そうだったので何か知っている人がいたら教えてください。 錠剤の添加物を見ても変わったものは入っていなかったため、この量では爆発の心配はないようです。実際、爆発したという話は聞いたことがないため、あまり心配しなくていいかと思います。
常に携帯して 発作がいつどこで起こるかわからないので、どこで起こっても対応できるように準備しておくことが大切です。かなりの確率で血圧低下によるめまいやふらつきが出るので、立ったままは使用しないで下さい。座った状態か仰向けかで使用します。
もし使用しても発作が治まらなかったら? 数分で収まらない場合は追加で錠剤を使用することが出来ます。 ただ、1回で改善が見られない場合は詰まっている可能性もあるので迅速に病院を受診したほうがいいかと思います。
ニトログリセリンの作用機序
作用機序
一酸化窒素を遊離し、グアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMPを増加することで全身の血管拡張作用をもたらす
一酸化窒素とは酸素原子と窒素原子からなる化合物で、硝酸の原料になったり、スモッグや酸性雨の原因になっていたりするものです。そして、実は一酸化窒素は重要な生理活性物質です。
血管内皮細胞内で生産されており、血管平滑筋を弛緩させることで血管拡張作用を示します。1980年代に生理活性があると発見されました。1998年には血管に対する一酸化窒素の研究が評価され、フェリド・ムラド、ロバート・ファーチゴットとルイ・イグナロにノーベル医学生理学賞が授与されています。
ニトログリセリンは脂溶性が高いため、細胞膜を貫通し細胞内に侵入することが出来ます。そして、それが体内で還元されると一酸化炭素が遊離されます。その一酸化窒素が細胞内で作用することで効果が発揮されます。ちなみに、還元の機序については解明されていません。
一酸化炭素は細胞内に存在する「グアニル酸シクラーゼ」と呼ばれる酵素を活性化します。グアニル酸シクラーゼはGTPをcGMPに変換する作用を持っています。cGMPが増加すると、なんやかんやあって血管平滑筋を弛緩させることで、血管を拡張させる作用を発揮します。
全身の血管に対して作用するため、血管が拡張するせいで、頭痛や顔が赤くなったりする場合があります。また、血圧が低下するため、めまいやふらつき、頻脈が発生する場合もあります。
舌下錠として使用する理由
舌下錠として使用している理由は、簡単に説明すると飲み込んだ場合と舌下で使用した場合で薬の通る経路が全然違うため、効果に影響するからです。
通常の服用の場合、消化管を通過し、肝臓を通過してから全身循環に移動することになります。しかし、ニトログリセリンは肝臓を通過する際に酵素によって加水分解を受けてしまいます。そのため、この経路では効果が無くなってしまいます。
舌下の場合、消化管からではなく、舌下の静脈から直接吸収されて全身循環へ移行します。したがって肝臓を経由することがないため、分解を受けることなく効果を発揮することが出来ます。
それでは今回は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
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