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花粉症とは?
スギやヒノキなどの花粉による季節性のアレルギー性鼻炎のことです。花粉の侵入をきっかけにして、鼻粘膜でアレルギー反応が起こることで発生しています。
症状としては、鼻閉、発作性反復性のくしゃみ、水溶性鼻漏などが挙げられます。症状は個人差が大きく、くしゃみと鼻水が強い方もいれば、鼻詰まりがひどい方もいます。
花粉症の歴史
歴史自体は古く、1800年代のバビロニアに花粉症らしき症状が記録されています。紀元前460頃、古代ギリシャの医者であるヒポクラテスは花粉症と思われる症状について「体質と季節と風が関係している」と記録しています。また、紀元前100年ごろの中国にも、「春に貴社身、鼻水、鼻詰まりが増える」と記録が残っているようで、古くから人類を悩ませてきた病気であると考えられます。
日本では比較的新しい病気で、1961年に初めてブタクサの花粉症が報告されました。1960年代から急速に増加し、今や国民病といわれるまでになっています。有病率は国民の40%程度が花粉症であると言われています。
花粉症が日本で急増した理由は?
原因が明らかになっているわけではないため、いくつか説を紹介します。
・戦後に大量に植林されたスギが成長し、大量に花粉を飛ばし始めたため これはかなり有名な話かと思います。戦中戦後に大変な物資不足であったため、燃料や牧として森林が大量に伐採されました。その結果、全国各地にはげ山が出来たわけですが、これは台風や豪雨時に土砂崩れを起こす場合があるため、望ましくありません。そして、失われた森林資源の回復も必要というわけで、大規模な植林が行われることになりました。その時選ばれた樹種が「スギ」だったわけです。花粉症の方からすればなぜそんな忌々しい木を選んでしまったのか…。と思われるでしょうが、これにもちゃんと理由があります。スギは、柔らかく、まっすぐ育ちやすいため材木として有用であったためです。
最近では大量のスギの植林により花粉症が問題になってきたため、現在は花粉量の少ない品種や花粉を出さない品種に植え替えようというプロジェクトがあります。しかし、人工林もかなり広大なため、しばらく時間はかかるようですが…。
・地球温暖化の影響で花粉量が増えているともいわれている 花粉の量は前年の夏の気候条件によって大きく変化すると言われています。夏場の気温が30℃を超え、日照時間が長ければ長いほど花の数が増えるため、花粉の量が増えてしまうようです。そのため、地球温暖化によって気温が上昇することは花粉の量の増加につながっていると考えられているようです。
・大気汚染によって花粉が汚れており、花粉が破裂しやすくなったことで発症する人が増えた 花粉症は花粉そのものというよりは、花粉由来の特定のタンパク質に接触することで引き起こされています。そのタンパク質は花粉表面と内部に存在しているため、花粉が破裂して内容物が放出されるとタンパク質と接触しやすくなります。大気汚染によって花粉に化学物質がつくと花粉が損傷し、花粉が破裂しやすくなるとする報告があるようです。
・大気汚染などによって、空気中に含まれる微粒子が増加しており、これらによって免疫が刺激されやすい状態になっているため、過敏に反応が出やすくなっている 花粉症はアレルギー反応の一種です。免疫が活性化しやすい状態になっていると、少量のアレルゲンでも鋭敏に反応してしまいます。これは、このような状態が形成されやすい環境になってしまっているという説です。
・住環境、食生活の変化などによって鼻腔内の環境が変化している 鼻腔内の環境が変化することで、花粉由来のタンパク質が溶出しやすい状態が作り出されてしまい、接触するアレルゲンの量が変化するとする報告があります。
はっきり原因が解明されているわけではありませんが、いずれにしても、花粉と接触することによって引き起こされているのは間違いないでしょう。
よって、花粉症の発症・悪化を予防するためにはアレルゲンとの接触を避けることが最も重要です。そのため、こまめな掃除や体への接触を防ぐマスク・ゴーグルが効果的です。
また、必要に応じて薬物療法が取られます。治療薬については後述します。
花粉症発症メカニズム
花粉症発症メカニズムは大きく分けて「感作」「誘発」に分けることが出来ます。以下細かいメカニズムです。
鼻粘膜内に抗原が侵入し、それをマクロファージや樹状細胞など、抗原提示細胞が取り込みます。抗原提示細胞はヘルパーTに抗原提示し、ヘルパーT細胞がTh2に分化します。その後、Th2はサイトカインを複数種放出し、そのサイトカインを受けてB細胞が形質細胞へ分化します。形質細胞が産生したIgE抗体がマスト細胞のFc受容体に結合すると、マスト細胞が免疫応答を誘発しやすい状態へ変化してしまいます。この状態を感作といいます。
そして、再び侵入した同じ抗原がIgE抗体に結合すると、マスト細胞はケミカルメディエーター(ヒスタミン、TXA2、ロイコトリエン等多数)を放出します。これが誘発です。
いろいろ解説しましたが、放出されたケミカルメディエーターが作用することでさまざまな症状が発生します。これが花粉症の発症メカニズムです。
代表的な花粉症治療薬
治療薬は上で解説した発症メカニズムの流れを断ち切るような薬が用いられます。今回は「抗ヒスタミン薬」「ロイコトリエン受容体拮抗薬」「点鼻ステロイド」について簡単に解説します。
抗ヒスタミン薬
作用機序 ヒスタミン受容体を遮断することで抗ヒスタミン作用を示す
現在最もよく用いられている鼻炎の薬かと思います。かゆみに対して使用することもあります。様々な種類があり、効果は個人差があるので、いろいろ試してみる方をよく見かけますね。
モノによっては眠気が出たりでなかったりしますが、これは専門家に聞いた方がいいかもしれません。
ただ、眠気が出る方が強いとかそういうわけではありません。
以下使用上の注意です。
眠気 中枢神経系にもヒスタミン受容体が存在しています。覚醒や興奮を司っているとされていて、これが遮断されることによって、眠気やだるさといった副作用が発生します。眠気以外にも、自覚症状はないが注意力や判断力が低下している場合があるため、運転など危険を伴う作業については避けていただく方が無難です。 気になる様なら非鎮静性のものもあるため、それを聞いてみるといいと思います。 ちなみに、この副作用を利用して睡眠薬にしたのがドリエル(ジフェンヒドラミン)です。
てんかん 中枢神経系のヒスタミン受容体を遮断するとけいれんが起こりやすくなることが分かっています。 そのため、てんかんの方はモノによっては禁忌に当たります。 特に子どもはけいれんしやすいと言われているため、熱性けいれんの既往がある場合はこれらの薬は控えた方が無難かもしれません。中枢移行性の低い薬であれば中枢神経系のH1受容体を遮断する割合もかなり抑えられるので、モノによっては使用することもありますが、主治医の了解を得てから使用した方が安全です。
抗コリン作用(特に第一世代) 口渇やドライマウスが出現することがあります。うがいやシュガーレスガムなどで対応できます。 最近よく使われているものでは抗コリン作用は少な目なので、そこまで気になるということはないかもしれませんが、この作用のせいで閉塞隅角緑内障、前立腺肥大症の方に禁忌になる薬があるので、該当する方は医師に相談してください。
ロイコトリエン受容体拮抗薬
副作用も少なく、大人から子どもまで幅広く使われる薬です。特に鼻詰まりに有効です。
作用機序 ロイコトリエン受容体を遮断する。
作用機序については、先ほどのヒスタミンをロイコトリエンに置き換えたらだいたい同じになるので省略します。
以下使用上の注意です。
約一万例のうち一例ではありますが、臨床試験にて因果関係不明の精神症状が見られた報告があります。これでは精神症状については統計的に有意に増加しているわけではありませんが、この件があるため市販されることは多分ないかと思います。
点鼻副腎皮質ステロイド
作用機序 細胞質内受容体に結合し、核内に移行した後核内転写因子として作用し、炎症を引き起こす遺伝子の発現を調節し、炎症を抑制する
微量で局所的に強力に炎症を押さえ、効果の発現も速いことも特徴的です。そして、内服ステロイドと違い全身での副作用は非常に少ないとても優秀な薬です。
以下使用上の注意です。
使用方法がデバイスによって違うので、よく確認して使ってください。振って使用するものと、振ったらうまく使用できなくなるものがあります。 また、即効性はなく効果の発現まで時間がかかるので、しばらく継続して使用してください。
それでは今回は以上です、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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