テレビ発の奇抜なダイエット法で食中毒が多発した話「ぴーかんバディ!食中毒事件」

解説

今回は「ぴーかんバディ!」食中毒事件について解説していきます。

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概要

2006年5月6日、TBS系の健康情報番組である「ぴーかんバディ!」でとあるダイエット方法が紹介されました。それは、「白インゲン豆を3分いった後に粉にし、ご飯にかけて食べる」というずいぶん変わったダイエット法でした。しかし、これを実行した視聴者に激しい下痢、嘔吐といった健康被害が多数発生しています。

厚生労働省の調査によると、158人の健康被害が発生し、そのうち30名は深刻な消化器障害を抱え入院したと報告されています。しかし、食中毒にはなったが病院にかかっていない人の数はさらに多いと考えられるため、実際のところ被害者の数は未知数です。

白インゲン豆には「フィトヘマグルチニン」という有毒成分が含まれており、これが食中毒の原因になったとされています。

なぜこんなダイエットが生まれたのか?

このダイエットは白インゲン豆に含まれる「ファセオラミン」の作用を利用することを目的にしています。ファセオラミンはでんぷんなどの糖質を分解する酵素である「α-アミラーゼ」を阻害する作用を持つタンパク質です。タンパク質なので、熱によって変性し、不活化してしまいます。

通常、デンプンはそのままでは吸収できないため、これを酵素によって分解する必要があります。そのため、α-アミラーゼを阻害することで糖類の吸収を抑えることが出来るので、カロリーをカット出来るというわけです。

今回の白インゲン豆ダイエットはこれをダイエットに利用しようと考えた結果考案されたダイエット方法と考えられます。ちなみに、ファセオラミンはアメリカではすでに精製されたものがサプリメントとして利用されているようです。

しかし、白インゲン豆には、「フィトヘマグルチニン」という毒性を持つタンパク質も含まれています。フィトヘマグルチニンもタンパク質なので、ファセオラミンと同じく熱によって不活化されてしまいます。

白インゲン豆ダイエットを成功させるには、白インゲン豆に含まれる「ファセオラミン」と毒性を持つ「フィトヘマグルチニン」のうち、何とかしてフィトヘマグルチニンだけを排除したいわけです。

そこで、ファセオラミンとフィトヘマグルチニンの耐熱性の違いを利用することを考え付きました。ファセオラミンはフィトヘマグルチニンに比べると耐熱性が高いとされているのです。

そのため、ファセオラミンは熱耐性で残り、フィトヘマグルチニンは失活させられると考えられる「3分炒る」という方法を取ることにしました。実際に、スタッフ十数人で10日以上試食したところ、特に問題は発生しなかったようです。

ファセオラミンとフィトヘマグルチニン

ファセオラミンもフィトヘマグルチニンも「レクチン」の仲間です。

レクチンとは、糖に結合するタンパク質であるで、動物や植物に広く分布しています。特に、インゲン豆の仲間はレクチンを多く含むということが分かっています。また、インゲン豆のレクチンは赤血球を凝集させる作用があるため、ヘマグルチニンと呼ぶこともあります。

ここからはそれぞれについて解説していきます。

フィトヘマグルチニンはタンパク質なので熱によって変性しますが、温度は75℃程度では毒性が残ると言われていますまた、不完全な加熱では生の状態よりも毒性が強くなるとする報告があるようです。赤血球を凝集させる作用を持っていて、抽出液を16000倍に薄めてもその活性が残る程度には強力な作用があります。食中毒の場合、血液中には移行しないのでこの作用はあまり関係ありませんが…。食中毒が発生する機序については不明です。

毒素は「ヘマグルチニン単位」で表されます

生のインゲン豆では1g当たり2万から7万単位程度とされていて、生では数粒程度でも中毒症状が発現すると言われています。加熱後は200~400単位程度となるので、加熱によって相当減少することが分かります。中毒症状は激しい嘔吐や下痢といった急性の症状が現れます。

ファセオラミンは「α-アミラーゼ」を阻害することでデンプンの消化を抑制します。デンプンは食事中に占めるエネルギー量が最も多いため、これの吸収を抑制することでエネルギーをカットすることが出来るわけです。

インゲン豆を3分間炒るダイエットはどうなの?

食中毒事件が発生しているため結果は明らかですが、これについて解説していきます。

インゲン豆ダイエットでは、ファセオラミンの方がフィトヘマグルチニンよりも熱への耐性があるという点を利用して、3分間だけ加熱することでファセオラミンの活性だけを残そうとしていました。まずはこの調理の妥当性について考察していきます。

まず、この調理方法はかなり妥当性の低い方法であると考えられます。
その理由としては、「皆が同じ環境で行えるわけではない」ことが挙げられます。炒るという状態は誰がやっても同じ結果になるわけではありません。強火、弱火など火加減の違い、フライパンの熱伝導性の違い、豆の大きさ、サイズ、温度、水分含有量などなど条件の違いがいくらでも見つかります。

熱耐性の違いを利用して片方だけを残すというのはいかにもそれっぽいですが、現実はそう簡単にはいきません。そもそも豆の温度を特定の温度にし続けるということ自体が何の準備もなしには困難です。このような状態で、ファセオラミンの活性のみを残すといった絶妙な火加減に調整することは不可能といっていいと思います。

不適切な加熱をした結果、両方の活性がなくなったり、両方とも活性が残る可能性が非常に高くなります。そして、加熱が不十分だった方々に食中毒が発生してしまったというわけです。

もしも、「沸騰した水の中に入れる」であればまだ再現しやすいではありますが、上記のような細かな条件の違いが複数存在するので、この調理方法では再現性は非常に低いといっていいでしょう。恐らく、スタッフが実施した時には「両方が失活していた」のではないかと思います。ファセオラミンの活性が確かめられているわけでもないので、この可能性が一番高そうです。

そして、今回のファセオラミン含有量についてみていきます。使用されたインゲン豆は大匙2杯が平均とのことですが、この程度の摂取量ではファセオラミンが完全に残っていたとしても効果はほとんど期待できなさそうです。そもそも加熱で不活化するので使用する時には残っているかどうかすら怪しいわけですが…。

事故後の対応

テレビからの情報により食中毒の発生に気づいた医師はさっそくテレビ局に中止を呼び掛けました。しかし、その呼びかけには応じませんでした。その後、日本各地でこの食中毒の報告が上がったことでようやくホームページ上に注意喚起がされました。注意喚起はリンクを貼っておきますのでそちらからご覧ください。

http://163.45.126.3/company/newsrelease/20060508.htmlより引用

これを要約すると、「注意喚起をしたにもかかわらず、このような食中毒が複数発生しています。同様の被害が出る可能性があるので、白いんげん豆ダイエットを控えるか、専門家に相談してください。」と書いてあります。

掲載されている文章では、食中毒の発生のきっかけになったにもかかわらず、なんと

謝罪をしていないのです。

少なくとも食中毒によって数十名入院しているにもかかわらず、です。また、このような不祥事を起こしたにもかかわらず他社からは大した報道もなくろくなペナルティもありません。恐らく他の会社がやっていたら総バッシングで倒産していたと思います。明らかに他社にかばわれています。もっと、互いに牽制しあい、他社の落ち度を追求し再発防止について議論する等建設的な対応は出来ないのでしょうか。相互にかばい合ってお互いの不祥事を取り上げない姿にはあきれます。

厚生労働省はこの事件を受けて、6月20日に文書で行政指導を行い、その前の6月17日に「ぴーかんバディ!」は打ち切りになっています。

それでは今回は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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