今回は名前が類似していたために消えた薬「アルマール」について解説していきます。
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アルマールはどんな薬?
アルマールは1985年に承認された医薬品で、有効成分名は「アロチノロール」です。
承認当時の効能は、本態性高血圧症、狭心症、頻脈性不整脈でした。
その後、1995年に本態性振戦の適応が認められています。
アルマールの作用
以下、添付文書上に記載のある作用機序です。
交感神経α及びβ受容体に拮抗作用を示す薬物であるが,主体はβ遮断作用で,降圧作用も主としてこれに基づく。β遮断薬投与により内因性カテコールアミンのα作用が強まり血管収縮が起こることがあるので,これを抑制するためにα遮断作用を付加した薬物である。
アロチノロール塩酸塩錠5mg「DSP」より引用
体の内部は外部の環境が変化しても常に一定の状態を保つように管理されています。このことを「ホメオスタシス」といいます。人体にはこれがうまくいくように調節する機能があり、この調節の一部を行っているのが「自律神経系」です。
自律神経系は血圧や呼吸数など意図的に調整するようなものではなく、無意識的に機能するという特徴があります。さらに、自律神経系は大きく分けて「交感神経」と「副交感神経」に分類することが出来、それぞれが効果器(作用の対象)に対して拮抗的に作用します。このようなメカニズムで必要に応じて組織の働きを調整しています。
自律神経系が組織に作用する上で情報の伝達が必須ですが、
この情報の伝達に「アドレナリン受容体」が関与しています。
アドレナリン受容体はいくつか種類があり、ざっくり分けてαとβが存在します。
アルマールはアドレナリンα、β受容体に拮抗する作用を持つ薬で、β受容体の拮抗作用が効能の中心です。
そして、アドレナリンα、β受容体はさらに細かく分類することが出来、それが下記のようになります。
アルマールは主としてアドレナリンβ受容体に作用しますが、その選択性はないため、
ここに記載のあるアドレナリンβ受容体の作用をすべて打ち消す方向に作用します。
つまり、アルマールの降圧作用は心機能の抑制と血管が弛緩することを抑制することに起因します。
また、アルマールには気管支平滑筋の拡張を抑える作用があり、喘息症状を誘発してしまうため気管支喘息に対しては禁忌となります。また、心臓の機能を抑制する方に作用するために、心不全症状を悪化させる恐れもあります。
アマリールはどんな薬?
アルマールに非常に似た名前の「アマリール」と呼ばれる薬があります。
アマリールの有効成分は「グリメピリド」で、上に示しているのがグリメピリドの構造式です。
アマリールの作用
アマリールは2型糖尿病の薬で、血糖値を低下させるホルモンである「インスリン」を強制的に分泌させることで血糖値を降下させるという作用があります。
以下、添付文書に記載のある作用機序です。
本剤は主に膵β細胞の刺激による内因性インスリン分泌の促進(膵作用)により、血糖降下作用を発現するものと考えられる。また、in vitro試験において糖輸送担体の活性化等の関与が示されている。
アマリール錠0.5mgより引用
インスリンは、通常血糖値に合わせて厳密に分泌量が調整されています。
2型糖尿病は、インスリンの分泌量が減少、作用が減弱するなどの理由で血糖値の調整がうまくいかなくなった状態なので、アマリールは「インスリンの分泌量を増やし、血糖値を正常値に近づけよう」という薬です。
アマリールはその薬理作用上、インスリンの作用が強制的に増強されます。そのため、インスリンが効きすぎることで血糖値が下がりすぎる「低血糖状態」が引き起こされるリスクの高い薬です。
アルマールとアマリール取違い事例
ここまでに紹介した二つの薬ですが、名称が類似しているため、これらは取り違え事例が多発しています。特に、低血糖を誘発する恐れのあるアマリールが誤って投与された場合、重篤な低血糖症状が発生し致死的になることもあります。
実際、アマリールとアルマールの取り違えによって、死亡を含む医療事故やヒヤリ・ハット事例が発生しています。実際に発生した事例としては、医師の処方ミスや薬局での薬の取り違えなどが多く報告されています。実際に誤投与が発生すると、正しく血糖値が正しくコントロールされている患者に対して糖尿病薬が投与されることになるため、血糖値が著しく低下してしまうのでに非常に危険です。
取り違え対策
取り違えの原因が名称の類似のため、その名称を変えて混同しにくいように工夫がなされました。
このような経緯でアルマールは無くなり、それと同じ名前の薬である「アロチノロール塩酸塩錠」に生まれ変わりました。
今回の場合、間違いを起こさないように気を付ければ回避できそうにも見えますが、今回の事例ではそもそも間違いが起こる原因が「名前が類似している」であるため、それを改善するということが最も有効な手段です。人はどこまで気を付けていても必ずいつかはミスをするため、その仕組みや環境を改善することでミスの発生率を下げることが重要です。
それでは今回は以上です、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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