花粉症治療薬で不整脈?「テルフェナジン」

解説

今回は、この世から消えてしまった薬である「テルフェナジン」についていろいろ解説していきます。

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テルフェナジンについて

テルフェナジンは1990年に承認、発売された抗ヒスタミン薬で、商品名は「トリルダン」です。
ヘキスト・マリオン・ルセルと塩野義製薬から販売されました。
適応は気管支喘息アレルギー性鼻炎蕁麻疹皮膚疾患に伴う掻痒でした。

テルフェナジンの歴史

1973年、アメリカの製薬会社であるリチャードソン・メレルの科学者によって合成されました。ちなみに、この会社はサリドマイド製剤をアメリカで販売しようとしていた会社です。FDAの機転で承認はされませんでしたが。
サリドマイド関連の話は別記事にあるのでそちらをご覧下さい。

当初は精神安定剤として開発されましたが、中枢神経系に移行しないため効果が見られませんでした。その後、薬理学者であるリチャード・キソルブが抗ヒスタミン薬である「ジフェンヒドラミン」に構造が類似していることに気づきました。

ジフェンヒドラミン構造
テルフェナジン構造

気持ちベンゼン環のところが類似しているかな、という気はしますが、詳しくはわかりません。
というわけで試験を行ったところ、「非鎮静性の抗ヒスタミン薬」であることが判明し、これを世界初の非鎮静性の抗ヒスタミン薬として承認、販売されることになりました。

アレルギーとは?

アレルギーは、人体には異物が侵入してきた時、それを排除する免疫という仕組みがあります。その免疫機能が異常に機能し、生体に不利に働くとアレルギーと呼ばれています。

アレルギーはⅠ型からⅤ型に分類することが出来、花粉症やアナフィラキシーショックなどはⅠ型に分類されます。そして、ここから先はⅠ型アレルギーのことを単に「アレルギー」と呼称します。

アレルギー反応はざっくり二段階で起こります。

1段階目は感作と呼ばれます。感作はアレルゲン(抗原)が侵入し、それによって特異的な抗体が生成されます。これにより免疫反応が起こりやすい状態が形成された状態です。
2段階目は誘発で、再び侵入したアレルゲン(抗原)に免疫が過剰に反応し、アレルギー症状が引き起こされます。

テルフェナジンの薬理

テルフェナジンは肝臓CYP3A4によって代謝を受け、「フェキソフェナジン」になり、それから効果を発揮します。このような薬をプロドラッグといいます。ちなみに、フェキソフェナジンは「アレグラ」として現在も販売されている薬です。

フェキソフェナジンの薬理
アレルギー症状は免疫系の異常で引き起こされるものですが、その過程には多くの免疫細胞が関わっています。その経路には「ヒスタミン受容体」が存在しており、フェキソフェナジンは「ヒスタミン受容体」を阻害することでアレルギー症状が発生しないように働きます。

抗ヒスタミン薬の歴史

抗ヒスタミン薬の歴史は、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration以下FDA)で「ジフェンヒドラミン」が承認されたことから始まりました。そこから1970年代までに生まれた薬を「第一世代」、1980年代以降に生まれた「第二世代」に分類することが出来ます。

第一世代はヒスタミン受容体への特異性が低く、ムスカリン受容体やセロトニン受容体への作用も多くありました。そのため、緑内障や前立腺肥大症の悪化など副作用が多くありました。また中枢移行性も高く、催眠・鎮静作用があるため使いにくい面が存在しました。

第二世代はヒスタミン受容体への選択性が非常に高くなっています。他の受容体への作用が劇的に減少したため、副作用の低減につながりました。しかし、中枢移行性は変わらなかったため、催眠・鎮静作用については変わらずに存在していました。

しかし、テルフェナジンは違います。中枢移行性がほとんどなかったため、催眠・鎮静作用がほとんどなかったのです。

テルフェナジンの発売後

初の非鎮静性の抗ヒスタミン薬のため、眠気が非常に問題になる自動車の運転手などに需要が高かったテルフェナジンですが、発売後5年間で関係が否定できない重篤な不整脈が7例発生しています。そのため、1995年1月に添付文書に「警告」が追加されました。

しかし、それからも心停止や死亡した患者がさらに出現し、1997年までに、同様の死亡に至るおそれのある不整脈が10例報告されたため「緊急安全性情報」が配布されました。当時の報道では花粉症治療薬で不整脈といわれる始末でした。緊急安全性情報以降、肝不全や特定の薬剤を服用中の患者には投与されなくなり、使用頻度は低下しました。

そして、不整脈のリスクのない、非鎮静性の抗ヒスタミン薬である「アレグラ」が2000年に発売されました。敢えてテルフェナジンを使用する理由がなくなったため、2001年に販売が中止されることとなりました。

テルフェナジンはなぜ不整脈を引き起こす?

ざっくり紹介すると、テルフェナジンが高用量で心毒性を発現することが原因です。

テルフェナジンの体内動態

テルフェナジンは肝臓で代謝を受け、フェキソフェナジンとなり効果を発揮します。しかし、肝臓での代謝が抑えられるとフェキソフェナジンに代謝される割合は減少してしまいます。その結果、テルフェナジンの濃度が上昇することになります。特に肝臓のCYP3A4を阻害するような作用を持った薬との併用肝機能障害を持っている患者でこれが起こりやすいため、このような患者では通常よりもテルフェナジンの濃度が上がりやすく、心臓への影響が大きくなりやすいです。

心毒性機序

テルフェナジンはヒスタミン受容体以外にも「Kチャネル阻害剤」として作用します。

https://med.toaeiyo.co.jp/contents/arrhythmia-seminar/sample/mechanism-sample.htmlより引用

心拍は心筋細胞が規則正しく収縮することによって発生しています。そして、心筋細胞が収縮するにはさまざまなイオンの移動が関わっています。

テルフェナジンはK+の通り道であるKチャネルを阻害する作用があります。Kチャネルが阻害されると、心筋細胞からKが流出するのにかかる時間が延長されるため、心拍が乱されることになります。それによって不整脈が発生したというわけです。

また、フェキソフェナジンにはそのような作用はないため、不整脈の発生は報告されていません。

まとめ

テルフェナジンは1973年アメリカの製薬会社によって合成された物質です。当初は精神安定剤として開発されましたが、中枢移行性が低く、期待したような効果は見られませんでした。

その後、構造が抗ヒスタミン薬に似ているため試験してみたところ、非鎮静性の抗ヒスタミン薬であったことが判明しました。そして、テルフェナジンは1990年、初の「非鎮静性の抗ヒスタミン薬」として販売されました。

しかし、しばらく後に「致死的になり得る重篤な不整脈を生じる」ということが明らかになりました。その後、代替薬となるフェキソフェナジンが発売され、需要の低下もあり2001年に発売が中止されました。

今回は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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