今回は「ものすごくまずいものをどうやってごまかすか?」
という点について話をしていこうと思います。
これを極めれば、どれほどまずいものでも
それなりに食べさせられるように出来るようになるでしょう。
今回は
「クラリスロマイシンDS小児用10%「トーワ」
を例に挙げて解説していきたいと思います。
動画版はこちら↓
クラリスロマイシンはおいしくない
「クラリスロマイシンDS小児用10%「トーワ」は名前の通り、「クラリスロマイシン」と呼ばれるマクロライド系抗菌薬の製剤です。
クラリスロマイシンは非常によく使われる薬で、効果もよく、とても有用な薬です。しかし、非常に苦いです。私は原薬を食べたことはありませんが、苦味剤として使用される「キニーネ」に匹敵すると言われることもあるレベルのようです。
そういう薬ですが、治療を行う上でどうしても服用してもらう必要が出てきます。
しかし、大人でも「苦いものをあえて摂取したい!」という人はいないのはもちろんのこと、子どもがそのような事情など理解してくれるはずもなく、まずいものは嫌だと拒否されます(まずくなくても結構拒否されますが…)。
しかし、何とかして楽に飲んでもらいたい、飲んでもらわなければならない。そういうわけで、味をごまかす工夫が必要なわけです。今回はそのような工夫についてお話していきます。
味をごまかす工夫
これはクラリスロマイシンDS「トーワ」の製剤設計図です。
先ほどお話しした通り、クラリスロマイシンは非常に苦い薬です。これをごまかすために、薬の成分が漏れ出ないように二重にコーティングしています。苦味は舌に存在する味蕾で感じ取るものなので、「クラリスロマイシンが味蕾に接触しなければ味はわからない」という寸法です。クラリスロマイシンは味が悪いという点を除けば服薬に苦労する点はおおよそないので、これならあまり気にすることなく服用することが出来るようになります。
胃溶性高分子とは?
胃溶性高分子は、文字通り、胃の中で溶けるような性質を持つ高分子物質です。
胃溶性高分子は水にはほとんど溶けず、希塩酸に溶けるという性質を持つ物質です。このような性質が味をごまかすことに実に都合がいいのです。
薬を摂取する際に味が問題になるのは経口摂取の時なので、経口摂取することを前提にしてお話します。通常、経口摂取をした薬は口から食物と同様に消化管へ移動し、胃を通過し、小腸で吸収を受けます。この経路で問題になるのは、口からの摂取であるために味が悪いと服薬しにくいということです。それならば味を感じないように何かしらで覆うような加工すればよいように見えますが、実はそう単純ではありません。服薬するうえで最も重要なことは効果をしっかり出すということです。味は問題ないから飲めるが、吸収されないため効果が出ないでは意味がありません。そのため、口では漏れないように、小腸までに吸収できる形にする必要があります。
ここで、クラリスロマイシンDS小児用10%「トーワ」の溶出試験の結果をお示しします。
IFによると、クラリスロマイシンDS「トーワ」では「アミノアルキルメタクリレートコポリマーE」という物質を使用していると記載があります。これは酸性条件下で溶け、水にはほとんど解けないという性質を持っています。
IFの溶出試験の結果から、「水中ではクラリスロマイシンをほぼ溶出させず、酸性条件下では速やかに溶ける」ということが読み取れます。通常、胃内はpH1程度に保たれているため、体内ではこの試験の酸性条件下での結果とおおよそ似たようなことが起こると考えられます。そのため、口ではクラリスロマイシンを放出せず、体内で放出するという狙った通りの挙動を実現しているというわけです。
ちなみに、クラリスロマイシンDS小児用10%「トーワ」を酸性の飲料に混ぜると恐ろしいことが起こります。本来この製剤は胃の中で溶出するように設計されているわけですが、酸性溶液中ではコーティングが溶出するため、本来胃内で起こるそれが服薬する前に起こってしまいます。クラリスロマイシンは非常に苦くおいしくない薬ですので、これが服薬前に檻から解き放たれてしまうことになります。すなわち、せっかく工夫によりごまかしていたクラリスロマイシンが味蕾に直接接触してしまうため、その激烈な味を体験してしまうことになります。そのため、この製剤と酸性のものと混ぜるととてもひどい味になります。例えば、スポーツドリンクやフルーツジュース、ヨーグルトが挙げられます。
それでは今回は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
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