飢餓と錯覚させる「ニフェジピン」

解説

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ニフェジピンとは?

ニフェジピンは、1976年に日本で販売が開始されたジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の一つで、高血圧や狭心症を治療するために使われる薬です。

ニフェジピンの薬としての側面については過去記事で解説しているので詳しくはそちらをご覧ください。

LD50

まずはニフェジピンのLD50についてみていきます。LD50については過去記事を参考にしてください。

ニフェジピンのLD50はかなり高く、毒とするほど急性毒性が強い物質ではありません。実際、通常の用量では1日量は80mgまでの使用になっているので、通常の使用で毒性が問題になることはないでしょう。

中毒症状

軽症の場合は悪心、嘔吐、ふらつき等が、中等症では洞性徐脈や反射性頻脈が見られます。重症の場合は錯乱、不穏、傾眠、昏睡、痙攣、心拍の停止、房室ブロック、低血圧、急性循環不全、高血糖、低カリウム血症、低カルシウム血症など、より深刻な症状が出現する可能性があります。

今回挙げたような症状は基本的に超大量の摂取で中毒を起こした時に発生するもので、通常の用量で出ることはまずないと思われます。用量依存的にニフェジピンの血管拡張作用は強くなり、循環器系の症状が出てきますが、今回はこれらとは異なるメカニズムで発生する「高血糖」について解説していきます。

毒性メカニズム

ニフェジピンは、心臓や血管の機能を調節するために使用される薬剤ですが、膵臓にも影響を及ぼして血糖値に異常を引き起こす可能性があります。

メカニズムの解説

インスリンとは、膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌されるグルコースを細胞の中に取り込ませる作用を持つホルモンのことです。以下インスリンの分泌メカニズムを解説します。

通常、膵臓β細胞はグルコースの増加に伴いATPが合成され、そのATPの合成によってATP感受性K+チャネルが閉じ、細胞内からのK+の流出がストップします。そして、それによって細胞内の電位が上昇することで電位依存性L型Ca2+チャネルを通じてCa2+が流入し、この刺激によってインスリンの分泌がされるようになっています。この過程がスムーズに行われることで、血糖値を一定の値に保つことが出来ます。

しかし、大量のニフェジピンはこれらのL型Ca2+チャネルをブロックし、膵臓のβ細胞からのインスリンの分泌を抑制してしまいます。インスリンの分泌が減少すると、グルコースを細胞内に取り込むことができなくなってしまいます。血糖を下げるホルモンはインスリンしか存在しないため、血糖値を下げることが出来なくなってしまうわけです。

通常の服用量ではこれらの副作用は基本的に起こらず、血糖値に大きな変動は生じません。しかし、ニフェジピンの過剰摂取では、インスリンの分泌減少やブドウ糖の細胞内への取り込み障害が発生し、血糖値が異常に上昇する可能性があります。

インスリンの分泌が低下すると、細胞は効率よくグルコースを取り込み,エネルギーに利用することが出来なくなってしまいます。もちろん細胞の生存にエネルギーは必須なので、体は別の手段でエネルギーを確保しようとします。それが「糖新生」「β酸化」です。

β酸化の亢進

インスリンの作用不足によりグルコースが取り込めなくなると、体はβ酸化を亢進します。体視点では細胞はグルコースを取り込めておらず、飢餓状態に陥ってしまっているためです。

β酸化では脂肪酸を代謝し、「ケトン体」と呼ばれる物質を作り出し、それを細胞に供給することでエネルギーを産生させることが出来ます。ケトン体とはβ-ヒドロキシ酪酸・アセト酢酸・アセトンの3種類の物質のことで、これらのうち、β-ヒドロキシ酪酸・アセト酢酸がエネルギーとして用いられます。したがって、β酸化が亢進するとケトン体が増加するわけですが、実は、ここで既に問題が発生しています。

細胞にはβ酸化で生産したケトン体をエネルギー源に使ってもらいたいわけですが、脳はインスリンの作用がなくともグルコースを取り込むことが出来ます。そのため、脳はエネルギー不足で困っていません。

そのため、思ったよりケトン体が消費されず、余った分が次第に体に溜まっていきます。先ほど紹介した通り、ケトン体は酸性の物質が含まれているため溜まれば溜まるほど体が酸性に傾いていきます。これをケトアシドーシスと言います。

ケトアシドーシスは代謝性アシドーシスの一つで、体にケトン体が蓄積することで発生しています。ケトアシドーシスで何が起こるのかを簡単にまとめたのが上図です。一つ一つ解説することが困難極まっているので、ざっくり生命維持活動をあらゆる方向から妨害するという風に認識してもらえればよいと思います。

糖新生の亢進

糖新生糖以外の物質を利用してグルコースを生産する反応のことです。今回ニフェジピンによってインスリンの機能が不足しているため、細胞にグルコースを十分取り込むことが出来ていません。その状態で体は「グルコースが不足しているせいで細胞がグルコースを入手できていないので、それならグルコースを生産すればよい」と判断して糖新生を始めてしまいます。しかし、実態としては血中にグルコースは存在しており、インスリンの機能が低下したせいで細胞に取り込むグルコースが足りなくなっている状態です。したがって、グルコースを増やしても何も解決しません。

そのようにグルコースが増えると次第に血漿の浸透圧が上昇します。それが原因で浸透圧性の脱水が発生し、細胞内の電解質濃度が変動してしまいます。それによって意識障害や倦怠感などさまざまな症状が発生します。

具体的なメカニズムについては過去記事で解説しているので、そちらを参考にしてください。

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