ワルファリン解説

解説

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ワルファリンとは?

ワルファリンは、クマリン系の化合物で、薬や殺鼠剤として用いられている物質です。ここでは簡単にそれぞれについて解説します。

薬としてのワルファリン

ワルファリンは広く抗凝固薬として用いられている物質で、よく「血液をサラサラにする薬」と呼ばれています。ワルファリンは体内で血栓が出来て血管が詰まることを予防する目的で使用されています。
殺鼠剤としてのワルファリン

1950年代から使用され始め、日本で最も広く用いられている殺鼠剤です。なんとネズミに対してヒトの50倍の毒性を持つと言われています。しかし、現在東京にいるドブネズミやクマネズミは、8割がワルファリンに耐性を持っていると言われています。

1970年代からワルファリンに耐性を持ったネズミが発生し始め、その対策として作用を強化した「スーパーワルファリン」が開発されています。
その力価はなんとワルファリンの100倍とも言われており、ワルファリンが数日程度で効果が半減するのに対して、スーパーワルファリンは半減になんと数か月かかるため、より蓄積しやすく、より致死性が高く設計されています。

ワルファリン発見の誕生

1920年代の北米の牧場で、「突如内出血が止まらなくなり死亡する牛が多発する奇病が発生したこと」から始まります。その牛を診察した獣医はすぐに「スイートクローバー」と呼ばれる牧草が問題であったことを特定しましたが、理由は全くの不明でした。この奇妙な病気は、その牧場の牛が「カビの生えたスイートクローバー」という牧草を食べていたことから、「スイートクローバー病」と呼ばれ、原因不明の恐ろしい病気と認識されていました。

1933年の冬、酪農家のエド・カールソンの牧場でも同様の病気が発生し、彼は大量のスイートクローバーと固まらない血液、牛の死体を積んでウィスコンシン大学に助けを求めました。その日は猛吹雪の日で、たまたまそこで唯一明かりがついていたカール・リンクの研究室に駆け込みました。そして、この奇妙な病気の原因を探るため、研究が開始されました。

7年に及ぶ研究の結果、牧草として保存していたスイートクローバーの一部が腐敗し、「ジクマロール」という物質が発生しているということが明らかになりました。

ジクマロールは「クマリン系」の物質で、血液の凝固を阻害するような作用がありました。スイートクローバー病は、大量のジクマロールを摂取し、内出血を起こした牛がそれを止めることが出来ずそのまま死亡した、ということが明らかになりました。

そしてカール・リンクの研究室では、この物質をヒントにしてジクマロールよりも作用の強い物質を合成することに成功しました。その物質を、特許所有者のウィスコンシン同窓会研究財団「Wisconsin Alumni Research Foundation」の頭文字である「WARF」とクマリンの語尾を組み合わせて、「ワルファリン」と命名しました。

抗凝固薬として用いられるまで

ワルファリンには血液の凝固脳を阻害する作用があり、血栓症治療薬として期待されていたようですが、合成された当時はその作用の強力さから臨床試験は行われませんでした。

そのため、ワルファリンはもっぱら牧場で問題となっていたネズミを殺すための「殺鼠剤」として用いられていました。その効果はてきめんで、最も人気のある殺鼠剤になるほどでした。

ワルファリンはそのようにしてしばらくは殺鼠剤として使用されていたのですが、何とこれを服用して自殺を図った者が現れました。そして、なんと一命をとりとめたのです。その一件からワルファリンの有用性を探るべく様々な臨床試験が行われるようになりました。

その結果、ワルファリンの安全性と有用性が示され、医薬品として使用できるようになりました。そして、1954年に「クマジン」という名前で承認されました。

しかし、当然ですが殺鼠剤と認識しているものを飲みたがる患者はほぼいなかったようで、あまり日の目を見ることはなかったようです。それから、1955年、当時のアメリカ大統領アイゼンハワーに処方され、その名前が広く知られるようになりました。

現在のワルファリン

ワルファリンは現在でも抗凝固薬として用いられており、世界中で数百万人に処方されていると言われています。さらに、世界保健機関(WHO)の「必須医薬品リスト」にも掲載されています。

ワルファリンの毒性

ワルファリンのLD50
1.6mg/kg・体重(ラット経口)

LD50については過去記事を見てください。

https://www.yukkurikm.site/220424-2

摂取後1~2日程度で抗凝固作用による出血症状が現れます。ワルファリンではそれが数日程度、スーパーワルファリンでは数か月程度持続します。

ワルファリンの作用機序

ビタミンKエポキシド還元酵素を阻害し、ビタミンKサイクルを抑制することで血液凝固因子の生成を抑制する。

作用機序の解説

凝固系は血液を固まらせて出血を抑える機能を持つ重要な反応系です。血管内で凝固が発生するとそれによって血管が詰まってしまうため、凝固は発生しないようになっています。ワルファリンはその凝固系に作用することで血液を固まらせない作用を発揮しています。

ビタミンKは凝固因子Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ、プロテインC、プロテインS等、それぞれの前駆体に存在するグルタミン酸残基を「カルボキシ化」する作用を持っています。これらの凝固因子はカルボキシ化を受けることで初めて「活性型」となり作用することが出来ます。

一方カルボキシ化をした後のビタミンKは、「ビタミンKエポキシド」となります。つまり、凝固因子が活躍するためにはビタミンKの作用が必要不可欠というわけです。

ビタミンKエポキシドはエポキシド還元酵素によってビタミンKに戻ることが出来、ビタミンKは再度凝固因子を活性化することが出来るようになります。ビタミンKの再活性化には「エポキシド還元酵素」が必須になってくるわけです。

ワルファリンはそんな重要なエポキシド還元酵素を阻害する作用を持っています。ワルファリンが作用すると、普段は使用後再利用できるビタミンKを再利用することが出来なくなってしまいます。その結果、凝固因子を活性化することが出来なくなってしまいます。

この状態は非常に危険で、軽い出血も簡単に止めることが出来ない状態になります。

また、凝固因子の作用を妨害するわけではないため、既に存在する凝固因子の作用を止めることはありません。したがって、凝固因子が枯渇してから作用が発揮されるため、効果の発揮に時間がかかります。

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